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「ノン・アルコール」「0.00%」の飲酒運転


                                   愛知学院大学法科大学院教授 (刑事法) 原田 保

 私の知る限り、「ノン・アルコール」と称する飲料はアルコールを含有している。数値表示も、例えばアルコール含有0.0499999%を小数点以下第2位で四捨五入すれば「0.00%」になる。どちらも真実の「非アルコール」「0」ではない。実質的に虚偽表示だと私は思う。
 この種の飲料について「飲んで自動車を運転しても違反にならない」と思っている人が少なからずいるようだが、間違っている。これも道路交通法に違反する違法行為である。
 道路交通法は「酒気を帯びて車両等を運転してはならない」と規定している。如何に微量であっても、アルコールの影響が自覚されていなくても、体内にアルコールを入れれば直ちに酒気帯び状態であり、そのような状態での運転はこの禁止規定に抵触する。明らかに法律の規定に違反する違法行為である。
 しかし、処罰対象はこの違法行為全部ではなく「酒に酔った状態」および「政令で定める基準以上にアルコールを保有する状態」の場合だけである。禁止対象と処罰対象とは一致しない。微量でも体内にアルコールを入れれば常に禁止違反・違法であるが、処罰は体内アルコール量が多い場合だけにする、という二重構造になっているのである。
 一般論としても、法的に禁止された違法行為の全部が処罰対象とされる訳ではない。違法行為だが処罰対象ではないというものは沢山あり、微量の飲酒運転もその一例である。「処罰されない=やってもいい」という判断はままあるが、これは誤解であり、処罰されないからといって許容されている訳では決してない。微量の故に処罰基準に該当しない場合でも、法律で禁止された違法行為であることに変わりはない。
 念のために更に言えば、身体のアルコール処理能力には個人差や変動があるから、「ノン・アルコール」「0.00%」なら処罰基準に該当しないという絶対的保証もない。処罰基準に該当しないことが多いというだけのことで、量や体質・体調の如何によっては処罰基準に該当してしまうこともあり得る。このような場合には故意の存否が問題になるが、ここでは立ち入らない。
 このようにノン・アルコールや0.00%の飲料を飲んで運転することは常に違法であるから、かかる飲料の製造・提供は客観的にこの違法行為に対する教唆・幇助の結果を生じる。共犯論は省略するが、この種の飲料に「アルコール入り」「飲んで運転するな」「未成年者は飲むな」という趣旨の表示は、ないこともあり、あっても大抵は目立たず判りにくく、飲酒の害を真摯に防止する意思があるとは認め難い。
 法律で禁止された飲酒運転に寛容な態度を執り、嫌忌する人を排斥する。他人に飲酒を強要し、拒絶する人を非難する。このような言動は珍しくない。私は法学研究55巻3・4号264頁註33で批判的に実例を挙げ、たまたま接した www.pixiv.net/novel/show.php?id=150702 にも同旨の記述があるが、これは異端なのか? 飲酒運転に寛容な人は、同程度に飲酒した医師による手術を躊躇なく受けるのか?
 主流派の意向と異なっていても、飲酒運転やアルコール・ハラスメントを否定的に評価するこの国の法規範に私は賛同する。酒・アルコールを明示する飲料だけでなく、ノン・アルコールや0.00%の飲料も、運転と結合すれば違法である。違法である限り、処罰対象外でもやってはいけない。「処罰されない飲酒運転」を意図すること自体が法規範への敵対である。断固として阻止されるべきだと私は思う。異端であり続けても、私が見解を変えることは絶対にない。