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体罰は犯罪行為です(2)


愛知学院大学教養部教授 梅田 豊
 体罰という名の暴行を受けた被害者(及びその親権者等)は、警察・検察に「告訴」することができます。被害者でなくても、その行為を目撃等した人は、同様に警察・検察に「告発」することができます。告訴・告発は警察・検察に当該事件の捜査を法的に義務づけます。もっとも、現実には、告訴・告発というのはかなりハードルが高いというのが実情です。先の私の息子の事案でも、息子本人も家内もそこまではしたくない、とはっきり言ってました。学校内で浮いてしまうとか世間体が気になるようです。警察・検察も被害者側に明確な訴追意思がないと告訴・告発自体をなかなか受理しないという現実もあるようです(それは、例えば後で被害者側の「気が変わる」というようなことになると手続上面倒なことになってしまうからでしょう)。しかし、まだそういう現実があるからこそ、本当に体罰を無くしていくためには、「体罰は犯罪行為である」という認識を私たち1人1人が持つべきなのです。
 さて、以上は学校(部活)等における教育・指導上の体罰を念頭に置いての話でしたが、家庭内での体罰の場合は問題が少し複雑になります。監護権(懲戒権)という正当化の理屈が考えられるからです。親権者は「子の利益のために子の監護及び教育をする権利を有し、義務を負う」と定められています(民法820条)。それに「必要な範囲内でその子を懲戒することができる」(同822条)とされ、著名な民法の注釈書(新版注釈民法(25))でも「懲戒のためには、しかる・なぐる・ひねる・しばる……など適宣の手段を用いてよいであろう」とされています。
 しかし、親による子供の虐待事件も後を絶たないという現実を踏まえれば、そのような古い考え方は今日では否定されなければなりません。世界の流れとしても、国連子どもの権利委員会をはじめ様々な国際的人権機関が各加盟国に対して体罰の法的全面禁止を求めています。そして、家庭を含めてあらゆる状況において子どもへの体罰を法的に禁止した国が現在では54カ国に上っています。このような世界の流れを受けて、日本でも漸く今年6月19日、児童虐待防止法等の改正法が成立し(来年4月施行)、親は「児童のしつけに際して体罰を加えてはならない」とされました。上記の民法上の「懲戒権」も施行後2年をめどにそのあり方を検討することになっています。
 しかし他方で、ある意識調査によれば、しつけのために体罰を容認する人がなお約6割にのぼるそうです。その背景には、「愛のムチ」としての体罰必要論があるように思います。「言っても分からない奴には、殴るしかない」というわけです。しかしこれは、明らかに教育・指導する側(つまり上の立場にいる者)の論理です。「言っても分からない」ことを「殴れば分かる」はずがありません。殴られて愛を感じるとすれば、それはマゾですね。普通、殴られて感じるのは恐怖です。そこには真っ当な教育も指導もありません。暴力によって信頼関係は築けません。ですから「殴らなきゃ分からん」というのは、その人に教育も指導もする能力がないことの言い訳にすぎません。
 従って、最後にもう一度繰り返します。体罰は犯罪行為です。絶対に許してはなりません。
(AGULS第26号(2019/9/25)掲載)