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併合罪における刑の軽重逆転


                                        愛知学院大学教授 (刑事法) 原田 保

 昔から気になっている事柄について、駄文を書く。一部は、10年前に愛知学院大学法学研究48巻2号で論じ、今年になって同誌58巻3・4号で言及した。
 まずA罪 (例えば強盗致死罪) で無期懲役相当と判断された被告人を想定し、この被告人がB罪も犯していて、両罪が併合罪であるとする。そして、B罪が懲役相当の罪 (例えば傷害致死罪) である場合と罰金相当の罪 (例えば過失致死罪) である場合とを対比する。
 傷害致死罪は過失致死罪より重いから、「強盗致死罪および傷害致死罪」が「強盗致死罪および過失致死罪」より重いことに異論の余地はない。ところが、前者の刑は「無期懲役」1個だけであり、後者の刑は「無期懲役および罰金」の併科である。犯罪としての評価は前者の方が重いのに、刑は罰金併科の点で後者の方が重い。B罪の法定刑が懲役または罰金である場合 (例えば傷害罪) の刑種選択でも、B罪以外の罪だけで有期刑加重上限に到達する場合でも、同じ現象が起きる。
 これは軽重逆転と評する他なく、合理的な量刑として説明する方法を駄文筆者は知らない。実務上も、懲役を回避して罰金に留めるための被告人側主張は、1罪だけなら軽い刑を目指す防御活動になるが、無期刑が確実な罪との併合罪や有期刑加重上限に到達した罪との併合罪なら刑の追加をもたらす不利益主張になる。
 刑法46条2項の規定は、併合罪中の1罪につき無期刑に処する場合に、他の罪の刑について、自由刑は科さず財産刑は併科する、という内容である。刑法14条2項・47条は有期の懲役・禁錮について加重上限を規定しているが、48条1項は罰金について、53条1項は拘留・科料について、懲役・禁錮との併科を規定している。前記の軽重逆転はこれらの明文規定から必然的に導かれる結論であり、別の結論はあり得ない。軽重逆転を避けるためには、逆転の原因になる罪を不起訴にして問題から逃避するしかない。
 前記規定において、他の罪の刑を併科する否かは、「罪の軽重」ではなく「刑種」による区別である。刑期が永久に続く無期刑に別の自由刑を併科しても刑期は変わらない。有期の懲役・禁錮が加重上限に到達した場合に別の犯罪に対する有期の懲役・禁錮を論じても刑期延長はあり得ない。しかし、どちらの場合でも、財産刑なら併科して自由刑だけの場合とは異なる刑を宣告・執行できる。後者では更に、懲役・禁錮に相当する罪を追加しても刑期は延びないが拘留相当の罪なら併科によって拘置期間が延びる。追加することに意味があるか、追加することが可能か、という観点からは、刑種如何による区別に合理性を認めることができる。
 しかし、軽重を考慮外に置くことの当否という問題がある。刑種だけを要件とする規定は、懲役・禁錮の刑期を更に長くすることができない場合に、「重い罪を追加しても刑は変わらないが、軽い罪を追加すると刑が増える」という結論を導く。犯罪としての評価の軽重と宣告・執行される刑の軽重とが逆転するから、併合罪全体に関する結論として不合理だ、と駄文筆者は考える。刑罰論を研究対象とする人々がどう考えているのか知らないが、吸収主義・併科主義を折衷した現行刑法の根本から検討を要する筈である。
(平29・8・1)