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相続法が変わる(2) -配偶者の相続分が増えるの?!-


                                  愛知学院大学法務支援センター教授 田中 淳子

問題です。Aには妻Bと3人の子C・D・Eがいる。Aは生前苦労をかけた妻Bへの感謝の気持ちを込め、生前に妻Bに居住用土地建物(遺言を書いた当時時価3000万円相当)を贈与した。AにもBにも他にめぼしい財産はない。Aの死亡により、子供たちCDEは、「私たちには何もないの?遺留分があるはずだからお母さんが生前に贈与を受けた不動産3000万円分をもう一度相続財産に戻して計算し直してよ」と言えるのか。
答えは、「言えなくなる場合もあるかも」。現在の民法では、相続人中に被相続人から生前贈与を受けた者がある場合は、生前贈与分(特別受益分)を遺産に持ち戻し、みなし相続財産とし、これに法定相続分または指定相続分を乗じ、特別受益贈与や遺贈を受けた相続人は、この金額から贈与や遺贈の額を控除され、具体的相続分が確定される。先の事例でいうと、Aの相続開始時には、遺産は、ゼロとなっていたが、Bへの生前贈与分3000万円相当が遺産に持ち戻され、法定相続分に従い、B1500万、CDE各500万円となり、Bは、生前に3000万円分贈与を受けているので、1500万円から3000万円を控除すると1500万円をBDCに渡さなければならないことになる。ただし、903条3項において、Aはこのような加算や控除を免除(持ち戻しの免除)もできるとしている。ただ、どのような場合に持ち戻しの免除が認められるかについて、条文からは明確ではない。そのため判例は、病弱な子のため、現在居住不動産に住み、株式配当で生計を立てる等の意図が明らかな場合には持ち戻し免除について黙示の意思表示があったといえるとした事案や、長年の妻の貢献に報いるため、居宅不動産兼店舗を利用し、老後の生計を維持してほしい(他に財産がない事例)との意図で贈与がなされた場合に持ち戻しの免除が認められている。
以上のように、相続人間で話し合いができない状況において、訴訟を経なければ「持ち戻しの免除」の意思が認められない理論状況では、贈与を受けた不動産の取得、維持・管理に実質的な貢献をしてきたBが1500万円もの金銭を子供たちのために準備しなければ、自宅に住み続けることができないということになってしまいます。そうなれば、民法903条の規定の趣旨である相続人間の「実質的」な公平が実現できないことになってしまいます。
そこで、当初、配偶者の相続分自体を引き上げる案が出されたが、根拠が明確でないとして修正され、今回民法・相続法の改正案として、「婚姻期間が20年以上である夫婦の一方が、他の一方に対し、その居住建物又はその敷地の全部又は一部を遺贈又は贈与したときは、民法903条3項(持ち戻し免除)の意思表示があったものと推定する」という規定を創設することを提案しています。高齢者の再婚事例が多い中、なぜ、20年間の婚姻期間のみを要件とするのか。この点には批判も多く、今後の改正動向を注視してください。
(AGULS第11号(2018/06/25)掲載)