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株主優待制度と会社法


                                  愛知学院大学法務支援センター教授 服部 育生

 わが国では、上場会社の約35%が株主優待制度を実施している。個人投資家の中には、配当金に株主優待を加算して実質利回りを計算し、銘柄選択する者も少なくない。所定数の株式を保有する株主に対する優待内容は、自社商品、地元特産品、優待(利用・割引)券、金券類(クオカード・図書カード・お米券)、預金金利の上乗せ(銀行)、ポイント付与等多岐にわたる。
 優待内容は株主の保有株式数と比例していないので(例えば500株以上の株主にはクオカード1000円分、3000株以上の株主には同2000円分、10000株以上の株主には同3000円分)、株主を保有株式数に応じて平等に取り扱うよう要求する株主平等原則(会社109条1項)との関係が問題となりうる。株主優待の主要目的は、安定株主の増加(個人投資家に株式を長期保有してもらう)及び自社商品・サービスの宣伝にある。このような目的を達成するうえでは、一定の幅の保有株式数ごとに優待内容に関し段階的に区別した取扱いをすることに、合理性が認められる。優待内容の段階的な区別の程度が相当なものである限り、株主優待制度が株主平等原則に抵触することはない。
 株主の目から見ると、株主優待は現物配当に類似している。剰余金配当を行うときは、配当財産の種類(金銭・現物)及びその総額等につき、原則として株主総会の決議を必要とする(会社454条1項)。また剰余金配当は分配可能額を超えてすることができない(会社461条1項8号)。
 株主優待は、その具体的実施態様(趣旨・目的、内容、数量・金額、タイミング)の如何によっては、実質的に現物配当に該当する可能性が認められる。例外的事例ではあるが、配当に必要な分配可能額が不足しているため、配当に代えて株主優待の形を利用して株主に物品等を提供したとすれば、それは剰余金配当規制を潜脱する行為と言えよう。株主優待が実施態様から実質的に現物配当に該当すると判断される場合には、剰余金配当に関する財源規制や手続規制の適用を受けることになる。しかし一般論としては、安定株主作りや自社商品・サービスの宣伝を主目的として多くの上場会社で実施されている少額の株主優待については、実質的にも現物配当に該当すると判断されることはほとんどないであろう。会社が株主優待制度を実施する際には、適法性の確保に配慮したうえで、株主にとって魅力的な優待内容を設計する必要がある。
(AGULS第13号(2018/08/25)掲載)