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戦争の違法化について


                                  愛知学院大学法務支援センター教授 初川 満 

古来より国際社会においては、国家間の紛争の解決手段としてしばしば戦争が用いられてきた。そこで本稿では、国際紛争解決手段として戦争が如何に位置づけられてきたかを、見ていくこととしよう。
古代ローマから中世を通し、「正義のための戦争は肯定される」とする、いわゆる正義論が支配的であった。違法な攻撃に対抗し又は権利を回復し実現するために、相手の違法行為に対し行われる正当な戦争は肯定される、という考えであった。
18世紀になると、「国家間の紛争の最終的な決着の付け方として戦争を用いることは主権国家の権利である」との認識が、支配的となった。これは、主権国家の独立・平等を強調する、いわゆる無差別戦争観ともいわれている。
ところが、人類史上初の世界規模の惨禍をもたらした第一次大戦後、戦争の開始手続や戦闘方法にいくら縛りをかけても、戦争自体が合法化されたままでは国際社会の平和と安全は確保できない、との考えが広がっていった。この流れから1920年に国際連盟が創設され、戦争に手続的条件を付けることにより戦争に対し制限を課した。権利の実現手段としての戦争そのものについては違法化こそしなかったが。
その後、1928年に侵略目的の手段としての戦争を禁止し、全ての紛争の処理を平和的手続により解決することを求めた不戦条約が採択された。もっともこの条約は、締約国による本条約に違反して戦争に訴えた国に対しての自衛のための戦争は例外としていた。
しかし、これらによっても第二次大戦の勃発は防ぐことが出来なかった。その反省から、再びこのような戦争が起きることを防ぎ国際社会の平和と安全を維持するために、1945年に創られた国連は、国際紛争の平和的解決を義務付け、武力による威嚇又は武力の行使を一般的に禁止した。とはいえ、国際社会において何らかの紛争が起きるであろうことは否定できない現実である。そこで国連は、武力行使禁止原則の例外としての武力行使権限を、国連のみが有することとした。つまり、武力行使権限は、平和に対する脅威、平和の破壊又は侵略行為に関する紛争の解決のためだけに国連の安保理のみが行使し得るのであり、条件付きで国家の固有の権利としての自衛権を認めはするものの、国連安保理が国際の平和及び安全の維持に必要な措置を採るまでの間に限る、としたのである。
こうして、戦争という行為は、正当な行為とされた時代から制限を課された時代を経て、今日では原則として違法とされ、極めて例外的な場合にのみ許されるものとなった。
(AGULS第18号(2019/1/25)掲載)