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都市計画にご注意を!


愛知学院大学法務支援センター教授 高橋 洋 
 昨年5月と今年の2月に地上波とBSで二度にわたって放送された「マンション戦争~ありふれた物語」というドキュメンタリーをご覧になった方も多いのではないでしょうか。
 このドキュメンタリーは、名古屋市瑞穂区で発生した「暴行」事件の顛末を追ったものです。この事件は、高さ45mの15階建てマンション建設の現場で、建設に反対する住民と工事監督者との間で発生した(とされている)ものですが、反対派住民のお一人が暴行罪で逮捕起訴されました。この事件は第1審で無罪が確定しましたが、その辺りの事情については弁護団長をされていた本学の國田武二郎教授・弁護士にお任せするとして、ここで問題としたいのは、都市計画法ないし建築基準法の問題性です。
 なぜ住宅地に高層マンションを建てることができるのか。このあたりは都市計画法でいう第1種や第2種の低層住居専用地域ではなく、5~6階建てのマンションも可能な第2種中高層住居専用地域や第1種住居地域とされていますが、全体として戸建ての住宅が多くを占める住宅地です。それなのに45mもの高層マンションが建設されました。それは、その地域の道路に沿って近隣商業地域という用途地域が設定され、そこの建築制限が建蔽率80%、容積率300%、そして高度制限が45mという緩い設定になっているからです。以前にこの道路が4車線に拡幅されることが計画され、それを前提に両側に近隣商業地域が設定されたということですが、その後この拡幅計画自体が撤回されたにもかかわらず、近隣商業地域の設定と緩い建築制限だけは残りました。その道路は北に行くにしたがって細くなり、北側の4車線道路に突き当たるころには大型車が通るのが困難なくらいになります。ここを4車線に拡幅するには用地の買収費用だけでも大変で、拡幅中止もやむを得ないでしょう。そもそも住宅地に広い自動車道は必要ではなく、必要なのはしっかりガードされた歩道(と自転車道)だと思います。
 それはともかく、近隣商業地域というのは「近隣の住宅地の住民に対する日用品の供給を行うことを主たる内容とする商業その他の業務の利便を増進するため定める地域」(都市計画法9条9号)とされているのですが、建築基準法(48条9号、別表第二(り))では、近隣商業地域に建てられる建物は、一部の風俗営業を除けば、ほとんど商業地域と変わらないのです。ですから、両地域の違いは、多少の形状の違いと、容積率や高度制限が商業地域に比べるとやや厳しいという程度の違いです。近隣商業というといかにも八百屋さんや魚屋さんのイメージですが、住居系の地域に比べると緩やかな容積率や高度制限を利用して、商業ビルではない高層マンションが建ってしまうのです。
 ドキュメンタリーの副題「ありふれた物語」のように、マンションをめぐる業者と住民の対立は何十年も繰り返されてきました。あの番組の中で市役所の担当者が「これからもなくならない」と言っていたのが印象的でした。市としては「なくす気がない」ということなのでしょう。住民としては、自らの住環境を守り、より良くしていくためには、たえず都市計画に目を配り、その改善を求めていくことが必要であるように思います。
(AGULS第20号(2019/3/25)掲載)