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撒骨(散骨)および葬送の論点 [撒骨・その12・出発]


撒骨(散骨)および葬送の論点 [撒骨・その12・出発]
愛知学院大学教授 (刑事法) 原田 保


撒骨につき、各種学問的成果から導かれる論点の幾つかを提示する。
★ 実定法に葬送として明記されていない死体取扱について、風俗・社会通念に適合するか否かを、如何にして法的に確認するのか?
★ 遺骨概念に関する判例・通説の定義にある「保存すべき骨」という表現が「保存義務」と解し得ることを、如何に処理するのか?
★ 撒布すると、骨に向けた礼拝が不可能になる。葬送の「追慕」面に対する侵害である。この国の社会通念は、「諦めろ」と要求するのか?
★ 撒布すると、広範囲に飛散・流散し、不特定多数の人々が意に反して骨に接近・接触する危険に晒される。葬送の「拒絶」面に対する侵害である。知って不快感を覚えても「我慢しろ」というのが、この国の社会通念なのか?

 撒骨適法説は、解答義務を負う。個人的感情の表明ではなく、社会的許容の論証である。撒骨が適法か違法かは、社会的許容の有無という問題である。国の許容は未だなく議論を要すると知ることが、出発である。

 死体・骨の処理も、利潤を生む商品になる。団塊世代大量死は、空前絶後のビジネスチャンスである。「〇〇家の墓」の後継問題を回避したい遺族が増加し、墓関係業界に流れる金銭を狙う業者が参入する。需要と供給とが合致し、撒骨という「簡便かつ安価な商品」が売れ筋になる。
 投棄だから、保存に伴う負担が全くない。遺骨遺棄罪を無視すれば、伝統的葬法のような法律的規制もない。海洋撒骨なら土地も要らず、船を調達すれば済む。つまり、誰でもすぐできる。だから、アマゾンやイオンのような異業種も容易に参入できる。船舶所有者による副業の例もある。
 そして、権威を纏う「法務省見解」のデマや「自由」「人権」という法律用語は「撒かれる側の被害」を隠蔽し、「自分らしく」「自然に還る」「ロマンチック」といった美辞麗句は「骨からの逃避」を肯定的に粉飾する。こうして、人骨投棄に対する規範的障碍が人々の内心から消滅する。
 これでいいのか? 現実を直視して、自分の頭で考えるべきだ。

 最後に、若干の私見。個人的感情ではなく、社会通念適合方法である。
★ 行政当局は「愛知県民墓」「名古屋市民墓」といった合同墓を設置して個人墓との選択を可能にするべきだ。火葬嫌忌文化が現存するのだから、土葬墓地も必要だ。
★ 火葬場残骨灰のように現行法上の葬送対象とされない人体由来物については、「準葬送対象物」「葬送対象近似物」といった概念を以て、単なる「物」「財物」とは異なる取扱を、法的に確立するべきだ。
★ 議論を経て「死体・骨の保存は必須でない」という社会的合意が得られたなら、法律の明文規定を以て、火葬の際に骨片維持か完全焼却かの選択を制度化するべきだ。
★ 撒骨は、遺骨遺棄罪として処罰対象になると解するべきだ。当罰的程度未到達の故に同罪不成立と解する余地については、立法論を含めて更なる検討を要する。
★ 現時点で撒骨の場所等を規制する立法には、賛成できない。刑法犯の問題を放置した行政規制は、悪徳商法について詐欺罪を無視して業者登録や金額制限を論じることと同じく、順序を誤まっている。

 国や自治体の積極的措置を含めて、脳死臨調と同様の検討を要する。
(令元・8・9)