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体罰は犯罪行為です(1)


 愛知学院大学教養部教授 梅田 豊

 21世紀に入ってからいわゆる体罰に対する社会の批判が強くなってきましたが、まだまだ体罰の温床は根強いものがあるように思われます。
 私自身も息子が2年前に高校のバスケットボールの部活動中に顧問の教員から体罰を加えられるという事件に遭遇し、その経緯から多くのことを感じました。息子は当時高校2年生で、3年生の最後の大会が終わり、新チームの主将に選ばれていました。顧問は、新チーム結成後1カ月程は全く練習を見に来ることもなく、突然1泊2日の遠征による合宿練習試合を組みました。新チームになったばかりで指導者の目もなければ部員たちの練習もだらけてしまうのは当然です。その結果は練習試合の内容を見れば明らかでした。激怒した顧問は、1年生の主力選手2名に対して数回のビンタを加えた上、頭を丸刈りにさせました。そして私の息子に対しては「主将のくせに何してる!」と怒鳴りながら至近距離から(1~2m位)バスケットボールを顔面に思いきりぶつけました(2回も)。息子は帰宅後すぐに部活をやめると言い出したのですが、それでは泣き寝入りになってしまうのでせめて校長に話をしてみろとアドバイスしたところ、幸い理解のある校長だったためすぐにその顧問を担当から外してくれました(他の保護者からも匿名の電話連絡が入っていたようです)。後で聞いたところその元顧問は、私の息子に対しては「パスの仕方を教えようとして誤ってぶつけてしまった」と弁解していたそうです(他の部員全員が見てるのに!)。この人は本当に悪いことをしたという意識が全くないのだと分かりました(もっとも元顧問は頻繁に暴力を振るっていたわけではないようです)。
 その間に法務局の「子供の人権相談」というところにも電話してみたのですが、「問題となった部員は特待生ですか」と聞かれて唖然としました。最初は意味がよく分からなかったのですが、要するに「スポーツ特待生」なら多少厳しい指導を受けるのも仕方ないから、まず学校とよく相談したほうが良い、というのです。「特待生ならば暴力を加えても良いということですか?」と聞き返すと、「そこまでは言いませんが、それぞれ学校の方針もあるでしょうから・・・」とのこと。法務局の人権相談窓口の担当者でさえ、こういう意識なのだ、と思い知らされました(なお息子の高校に特待生の制度はありません)。
 以上のように、そもそも体罰が悪いことだという意識が一般にはまだまだ十分ではないように思われます。体罰は悪いことであり「犯罪行為」であるという認識を私たちは持つ必要があります。ゲンコツ、ビンタ、ケツバット等々はいずれも人の身体に向けられた有形力(物理力)の行使であり、これは刑法上の暴行罪(刑法208条:2年以下の懲役)を構成します。それによって怪我をさせれば傷害罪(同204条:15年以下の懲役)になります(打撲や顔が腫れ上がる(=皮下出血)などの症状があれば全て傷害です)。そのような行為が刑法上正当化されるのは正当防衛などの特別の事情がある場合に限られます。そのような特別の事情がない限り、それは明白に「犯罪行為」なのです。教育・指導のための体罰という名目で、それらの行為が刑法上許される(正当化される)ことはありません。(続く)
(AGULS第25号(2019/8/25)掲載)