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民法改正と法定利息


愛知学院大学法務支援センター特任教授・弁護士 岩井羊一
法定利率の改正
 2020年(令和2年)4月、改正民法が施行されました。その中で、法定利息の利率(法定利率といいます。)の改正がありました。
法定利息とは 
 法定利息とは、契約が解除になって金を返さないといけないとき、交通事故の損害賠償を払わないといけないときのように、お互いの取り決めで利息が発生するのではなく、法律の規定でお金を払わないときに払う利息のことをいいます。支払う義務のある人が支払いを遅れた場合、利息もつけて払わせないと不公平になります。そこで、民法は、支払いが遅れた場合には利息も請求する権利を認めています。
今までの法定利率 
 問題は、その法定利息の利率です。これまで民法では年5%ときめられていました。例外として商法で商行為についての利率は年6%と決まっていました。この利率は、法律制定当時の市中における一般的な貸出金利を前提にしてきめられました。また、商売をする人はお金をうまく運用できるはずです。ですから、例外として1%高い利息を定めたのです。
弁護士の実務での取り扱い
 私は弁護士をしていますが、よく事件でこの法定利息のことが問題になります。たとえば交通事故等の事件では事故の日から年5%の利息も請求できます。年5%はとても大きな金額になります。しかし、裁判中に和解する場合には、利息を請求しないという解決をする場合もあります。勝つか負けるかわからない事件では、被告側は、負けたときの金額の大きさを考えて、原告側は利息がついても原告側も落ち度があって不利な金額しか認められない可能性もあるからという理由で、利息を支払わないかわりに早期に一定の金額の支払う約束をするということもあります。
改正の理由
 ところで年5%の利息というのは、約120年前の民法ができたときには、市中金利も高かったので特別おかしな割合ではありませんでした。しかし、現在は長く超低金利時代が続いています。法律に基づく利息だけ年5%では不平等になります。
 もう一つ不平等なことがあります。人が亡くなった場合等の損害賠償請求をするときには、中間利息を控除して支払うことになっています。将来に取得できるお金を今もらえるようになるから一定の割合で損害賠償を減額することになっているのです。その計算に法定利率である年5%が使われてきました。けれども、この低金利時代に、もらったお金を年5%で運用できる可能性はありません。これも不公平です。
さらに、商売をする人も低金利時代にはお金を有利に運用できません。6%はますます不合理です。そこで、民法の年5%も商法の年6%も見直すことになったのです。
改正の内容
 そこで、改正民法の法定利率は年5%から年3%に改正になりました。商法の規定は廃止され、商行為についての利率も3%に統一されました。これでもまだ高いですが、いきなり大きく変えるのもどうか、ということでこの利率になったものです。今後も市中の金利動向にあわせて法定金利が3年に1回見直されることになっています。
 なお、法定利率は、債権の発生時の法律が適用されるため、たとえば、令和2年3月に発生した交通事故について請求できる利息の利率は5%ですが、改正後の令和2年4月に発生した交通事故について請求できる利息の利率は3%ということになります。
(AGULS第34号(2020/5/25)掲載 )