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仕事中に持病の貧血で転倒した場合でも業務災害となるか


法務支援センター特別教授(弁護士) 國田武二郎
Q:当社の製造部門の従業員甲が、作業中に転倒し、作業用機械に頭を打って負傷しました。甲は、貧血症で、時々めまいな
 どの症状が出ており、倒れた時も貧血によるめまいで転倒したということです。このような貧血という私病が原因で発生し
 た災害でも、業務災害となるのでしょうか。
A:ある災害が業務上の災害になるかどうかは、判断に迷うことが多々あります。例えば、説例の場合以外に、昼休みに弁当
 を買い戻る途中で転んで怪我をした場合、出張で友人宅に宿泊し朝会社に帰路の途中怪我をした場合、会社の許可を得ずマ
 イカーで出張したが、事故に遭い怪我した場合等、色々なケースが考えられます。一般に、労働災害と認められるために
 は、①「業務の遂行性」と②「業務の起因性」が認められることが必要です。①の点は、労働者が労働契約に基づいて事業
 主の支配下にあること、すなわち、本来の担当業務を行っている最中であることであり、②の点は、労働者が労働契約に基
 づいて事業主の支配下にあることに伴う危険が現実化したものと経験則上認められることをいいます。説例では、製造部門
 の製造業務に従事していた最中ですから、①の点は認められますが、②の点は、転倒の原因は甲の本来の作業のなかで起き
 たものではなく、甲の私病である貧血症です。したがって、「業務の起因性」が認められるかについては問題です。しか
 し、過去の認定事例では、摂氏ゼロ度の場所での作業中、暖を取るためにストーブに寄ったところ、脳貧血を起こしてスト
 ーブに倒れ、火傷を負い死亡したケースについて、業務上と認定されています。このケースでは、本件災害は寒冷な環境に
 おける作業に関連して発生した身体の異変が原因となっており、脳貧血が本人の基礎疾患によるものであるとしても、脳貧
 血による失神(私病)と施設の状況にもとづく火傷とがあいまって死亡したとして業務災害と判断されました。つまり、負
 傷の間接的な原因が貧血という私病であっても、業務起因性が直ちに否定されるわけではなく、例えば、建築現場で資材な
 どが散乱していて、貧血による転倒でその資材で怪我した場合など、その負傷に事業所の施設が介在している場合は、業務
 災害と認められます。したがって、説例についても、業務災害と認められる可能性は高いと思います。

  一労働同一賃金とは、同一企業・団体におけるいわゆる正規雇用労働者(正社員)と非正規雇用労働者(アルバイト社
 員、パート社員、派遣社員等)の間の不合理な待遇差の解消を目指すものであり、雇用形態の不合理な待遇差をなくすこ
 とによって、多様な働き方を自由に選択できるようにするということです。具体的にどのようなことが待遇差にあたるか
 ですが、厚生労働省のガイドラインによれば、例えば、パートタイム労働者の基本給の場合「基本給が、労働者の能力又
 は経験に応じて支払うもの、業績又は成果に応じて支払うもの、勤続年数に応じて支払うものなど、その趣旨・性格が様
 々である現実を認めた上で、それぞれの趣旨・性格に照らして、実態に違いがなければ同一の、違いがあれば違いに応じ
 た支給を行わなければならない。」と記載されています。
  換言すれば、非正規雇用労働者も、正規雇用労働者と能力、経験、業績等で同じであれば、賃金などの待遇面で不合理
 な差別的扱いをすべきではなく、同等に扱うべきということです。それでは、基本給など正社員とパートタイム労働者を
 同一にする過程で、正社員の基本給等を会社が一方的に下げることはどうかというと、それは、労働条件の不利益変更で
 認められません。そうではなく、あくまで正社員の基本給等に基づきパートタイム労働者の基本給等も整備を進めるとい
 うことです。
  また、非正規雇用労働者と正規雇用労働者とで待遇差がある場合、その内容・理由等について説明義務が事業主に課せ
 られるようになりました。ですから、事業主は、仮に待遇差を設けて場合、合理的に説明がつくように制度設計をしてい
 く必要があります。なお、理由を求めた非正規雇用労働者に対して、解雇、減給、昇給停止等の不利益な取り扱いをする
 ことは禁止されています。
  この同一労働同一賃金を実行あらしめるために、違反があった場合、行政として勧告をし、それでも従わない場合、そ
 の旨をネットなどで公表するようになりました。また非正規雇用労働者に関する紛争については、裁判外紛争解決手続
 (行政ADR)の利用も可能になり、申出があれば、各都道府県の労働局が調停・斡旋をしてくれます。
  大企業は本年4月からですが、中小企業は2021年4月から施行されます。したがって、同一労働同一賃金を今後ど
 のように取り組むべきかについては、社会保険労務士などの専門家と相談しながら、今から準備しておく必要があると思
 います。
 (2020年12月9日)