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監視カメラとプライバシー


愛知学院大学法務支援センター教授 初川 満
 我が国では当初、監視カメラの導入について、プライバシーの侵害を理由として慎重な意見が強かった。とはいえ今日では、世間を騒がせる事件において監視カメラの果たした役割が大きく報道されることもあり、肯定的に評価する人が多くなっている。
では以下において、監視カメラによるプライバシーの侵害の問題について考えてみたい。但し、この問題は多くの争点を含むものであり、ここで論じ尽くすことは不可能であることから、監視カメラ先進国である英国での扱いを一例として見ていくこととしよう。
 そもそも英国においては、1990年代半ばまでは、監視カメラについての法的規制というものは殆どなされていなかった。しかし、1995年のEUによるデータ保護指令や1998年の英国人権法による欧州人権条約の国内法への編入を受け、1998年に新データ保護法が制定された。これにより、監視カメラによって取得された映像データ等は、同法の規制対象である個人データに該当し得ることを根拠として、同法及びそれに基づき2008年に制定された監視カメラ運用コード(情報コミッショナーが制定)や2012年の自由保護法などにより規制が行われることとなった。
 こうした英国における監視カメラの法的規制の特徴としては、ざっと以下の2点を指摘できよう。第一に、街頭監視カメラについては、データ録画が個人情報に当たり得ることを前提とし、前述の1998年データ保護法の規制の対象とされる。第二に、こうした法律は、映像データを取得する監視カメラの設置の法的根拠というよりも、取得した映像データの法的保護、言い換えれば、記録データの管理や利用の規制を重視している。
 ではここで、具体的に監視カメラとプライバシーの権利に関する欧州人権裁判所(欧州47ヶ国が加盟し、欧州人権保護基準に基づき具体的事件について判決する)におけるPeck v U.K.(2003年)を見ることとしたい。
 本件は、英国において、自殺しようとしてナイフを手に持って町の中心部を徘徊していた申立人Peckが、地方自治体設置の監視カメラにより現認され警察が出動し保護された事件である。ヨーロッパ人権裁判所は、公共の場所を監視カメラを通し監視していた点については、そもそも公共の場所において第三者に見られることはプライバシーの侵害には当たらないとした。しかし、その後においてこのカメラ映像をマスメディアが放映した点につき、監視カメラによりデータを記録し処理することはプライバシー侵害の問題は発生しないが、その映像データを扱う際には本人の承諾等プライバシーの権利の保護について考慮する必要があると判示した。
 この判例は、公共の場所におけるプライバシーについての欧州における判断を示したものであり、我が国においても参考になるであろう。
(AGULS第40号(2020/11/25)掲載 )