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株式交付による子会社化


愛知学院大学法務支援センター教授 服部 育生
 A社は、株式交換によって、B社の株主bから発行済B株式全部を取得して、B社をA社の完全子会社とすることができる(会767条)。株主bの保有するB株式は、強制的にA社へ移転し、bは対価(通常、A株式)をA社から受け取る。株式交換をするには、AB両社間で株式交換契約を締結し(会767条、768条)、AB各社の株主総会で特別決議による承認を受ける(会783条1項、795条1項、309条2項12号)。多数の株主が存在するB社の発行済株式全部を、A社が株主bから個別に譲り受けることは極めて困難である。その点、株式交換を用いる場合、株主総会の承認を得れば、反対する株主bの保有する株式を含めて全てのB株式をA社は取得することができる。
 A社がB社の発行済株式51%を取得しようとする場合には、どうすればよいか。A社はB株式の現物出資(会199条1項3号)に対して、A株式の発行を行うことができる。しかし現物出資には検査役の調査が必要となり(会207条)、引受人たる株主b及びA社取締役等が財産価額補填責任(会212条1項2号、213条)を負うリスクも存在する。そのため実務では、現物出資の手法はあまり利用されない。そこで令和元年会社法改正により、完全子会社化以外の子会社化についても、いわば部分的な株式交換として、株式交付制度が新設された。本制度では、A社がB社をA社の子会社化するためにB株式を譲り受け、譲渡人たる株主bに対して、B株式の対価としてA株式が交付される(会2条32号の2)。株式交付は部分的な株式交換として位置づけられるが、相違点も散見される。株式交換はA社(株式交換完全親会社)とB社(株式交換完全子会社)の双方による組織法上の行為であるが、株式交付ではB社(株式交付子会社)は株式交付の当事会社でなく、A社(株式交付親会社)の行為のみが組織法上の行為となる。
 株式交付は、株式交換と異なり、B社の発行済株式の全部を取得するものではなく、B社を子会社化するために必要な数のB株式を取得しようとするものである。株式交換ではAB各社の株主総会特別決議による承認を得ているので、反対する株主bの保有するB株式を含め、全てのB株式をA社が取得する。株式交付では、A社はB株式を法律上当然に取得するものではなく、A社はB社の株主bから個別の合意に基づきB株式を譲り受ける。組織法上の行為でなく、取引法理による規律が前面に出る。なおB株式が譲渡制限株式であるならば、B社による譲渡承認手続(会136条)を要する。
(AGULS第50号(2021/9/25)掲載 )