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薬物犯罪とその法的規制をめぐる諸問題(2)


愛知学院大学教養部教授 梅田 豊
 前回は薬物犯罪に対する規制の在り方として、世界の動向が非犯罪化(治療)に向かっていることについてお話しました。今回は、最近問題になっている大麻規制の在り方について考えてみたいと思います。
 大麻(マリファナ)には100種類以上の薬効成分が含まれており、そのうちTHC(テトラヒドロカンナビノール)は特に高揚感・解放感などの精神活性作用や幻覚・酩酊効果を発揮する麻薬的成分です。他方、CBD(カンナビジオール)は抗炎症・抗不安・鎮痛作用などの高い治療効果を発揮する成分で、いわゆる麻薬的効果はありません。このCBDについては、現在では違法とされておらず、一般に手に入ります。またTHCについても、世界ではさまざまな学術機関による検証の結果、大麻(THC)が健康に及ぼす悪影響は少なく「カフェイン」を上回るものではないとされ、大麻の安全性についての科学的検証はすでに結論が出ているとも言われています。
 第二次大戦後日本は大麻規制に関してアメリカの強い影響を受けましたが、その後アメリカでは、大麻の様々な有効性が認められ、医療用・嗜好用大麻解禁の動きが展開されてきました。特に最大の転機となったのは、2013年に「難治性てんかん」に苦しんでいたコロラド州の少女シャーロット・フィギー(当時5歳)が大麻成分のCBDオイルを服用し始めた直後から発作回数が(1日100回から週1回程度まで)激減し普通の生活が送れるようになったドキュメント番組が全米放映され大反響を巻き起こしました。そして、翌2014年NYタイムズは「大麻禁止はやめよう!」という社説を掲載し、当時すでに医療用大麻を公認していたのは23州、嗜好用は4州でしたが、同社説掲載後に多くの州で次々に規制が解かれ、現在では、38州が医療用大麻を認可し、嗜好用大麻も19州で合法化されています。
 ところが日本では、正反対に「大麻に医療面の価値はない」と大々的にアナウンスされました。2016年に医療用大麻の解禁を訴えていた元女優の高樹沙耶さんが大麻所持で逮捕され、猛烈なバッシングを受けました。その時点で厚労省は「そもそも医療用大麻などというものは存在しません」とコメントしたのです。2020年にも伊勢谷友介さんが大麻取締法違反で逮捕され有罪となっています。
 しかし、世界の流れは大きく変わっており、特に重要なのは、WHOの勧告で、2020年末に国連の薬物依存専門家委員会が大麻を「最も危険な薬物」リストから外し、少なくとも医療用大麻の効果を認めたことです。そのため、厚労省も2021年5月にいわゆる「有識者会議」の検討を踏まえて、大麻原料の医薬品使用解禁の方針を発表したのですが、同時に、時代に逆行する大麻「使用罪」の新設案を打ち出しました。これは、前回もお話したように、薬物犯罪は基本的に刑罰より治療(非犯罪化)というのが世界の流れであり、特に大麻はそれほど危険なものではなく十分にコントロールが可能だという観点からしても、有害で依存性が強い薬物(ハードドラッグ)と大麻を同等に扱って刑罰を科すという点で、根本的に疑問があります。皆さんも今後の動向を注視していただきたいと思います。
(AGULS第63号(2022/10/25)掲載)