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他人の土地を無償で使用している場合の法律関係


愛知学院大学社会連携センター教授 田中 淳子
 たとえば、親族の土地を父の代から「ただ」(無償)で使わせてもらっている、という場合や、妻所有の土地に建物を建ててカフェを経営している等、他人の土地を自分のために利用していることはよくあります。親族間、夫婦間の関係が良好であれば、あまり、法的な紛争を意識することはないかもしれませんが、親族の代替わりや、離婚になった場合には法律問題になることも珍しくありません。
 民法では、他人の所有物を無償で使用することを使用貸借(民法593条)といいます。使用貸借は、「当事者の一方がある物を引き渡すことを約し、相手方がその受け取った物について無償で使用及び収益をして契約が終了したときに返還をすることを約することによって、その効力を生ずる」ため、契約当事者の合意があれば成立します。では、借りた者は、どのような使用も可能かといえば、そうではなく、借主は、契約又はその目的物の性質によって定まった用法に従い、その物の使用及び収益をしなければなりません(594条)。仮に、駐車場として使用する約束で借りたのに、そこに小屋を建てて住んだり、第三者に借用物の使用又は収益をさせることはできません。そのようなことをしたいのであれば、借主は、貸主の承諾を得なければなりません(同条2項)。合意なく行うと契約は解除されてしまいます(598条2項)。そして、使用貸借は、貸主と借主の特別な関係に基づいて借主その人に貸す場合が多いため、使用貸借契約は、期間満了(597条1項)のほか、貸主が死亡した時に終了します(同条3項)。親族間の土地の使用貸借の場合、貸主が死亡した場合には、いくら親族だからといって、賃貸借とは異なり、借主の相続人が権利を承継することはできないといえます。また、離婚の場合も、夫婦であれば、協力・扶助義務(752、760条)があり、妻所有不動産を無償で使用することもできますが、離婚によって、その基礎となる使用目的(夫婦の生計の維持のため)や法律関係が消滅するため、使用を続けることは当然にはできません。仮に、「盆暮れにはお礼の品や謝礼を持って行った」旨の主張をしても、それが他人の土地の使用の対価(賃料)としてみることはできないので、借地権の成立を主張することは難しいと考えられます。使用貸借契約が終了した場合は、その附属させた物を収去し、原状回復する義務を負うことになります(599条1項、3項)。
 近時、名古屋高裁において、親族の一名(長男)に対し両親の介護を目的に建物の無償での使用(同居)を認めてきたが、父は死亡、母は施設に入所したため、介護のために同居する目的がなくなったこと、それ以前も介護せず別居していた事実があるとして信頼関係が破壊されている点と介護という使用目的が喪失した点から使用貸借の解約を認めた判決が出されています(名古屋高判令和2年1月16日判時2520号21頁)。問題解決には信頼関係の有無が重要です。民法上の権利行使には「信義に従い、誠実に」なされなければならない(1条2項)との基本原則がみなさんの日常の生活に重要な役割を果たしています。
(AGULS第65号(2022/12/25)掲載)