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TOP >  ブログ >  2017年度 >  撒骨 (散骨) に対する公認の不存在 [撒骨・その6・補足]

撒骨 (散骨) に対する公認の不存在 [撒骨・その6・補足]


                                         愛知学院大学教授 (刑事法) 原田 保

 平成29年9月29日に撒骨ブログを一応の完結とした。しかし、自明と判断して省略したが明記するべきだと考え直した点があるので、補足する。

[1] 国の法解釈を決めるのは「裁判所」であって法務省ではない
 撒骨の適否に限らず、法解釈について国の結論を示すのは、裁判所の職務であって法務省の職務ではない。裁判所間で見解が分かれることもあるが、最終的には最高裁判所大法廷の法解釈が日本国の「正しい法解釈」になる。
 これと異なる法解釈は、「誤った法解釈」として排斥される。論理的誤謬がなくても、学会の定説・通説でも所轄官庁の公式言明・行政解釈でも、裁判所の法解釈と異なっていればそれだけで、日本国としては「誤った法解釈」なのである。実例もある。
 何等かの権威を持つ言説を信じて適法だと思って遂行した行為でも、裁判所が違法だと判断したら確定的に違法なのである。適法だと思ったことは「違法性の錯誤」であり、錯誤の経緯如何で刑の減軽 (稀に故意責任の否定) があり得るに留まる。
 そして、撒骨が遺骨遺棄罪になるか否かという法解釈を示した裁判は未だ存在しない。撒骨の適否に関する国の結論は未だ示されておらず、「灰色」が現状なのである。

[2] 裁判所に犯罪成否の判断を求めるのは「検察官」であって法務省ではない
 裁判所が犯罪成否の判断を示すのは、検察庁所属検察官が起訴した場合である。検察官の起訴によらない刑事被告事件裁判もあるが、この例外的手続は裁判所または検察審査会の判断によるものであり、いずれにしても法務省ではない。
 撒骨が遺骨遺棄罪になるか否かを示した裁判が存在しないのは、検察官が同罪成立と判断して起訴した事例が存在しないからである。不起訴処分に際して、「起訴猶予」なら犯罪成立という判断が内包されており、「罪とならず」なら犯罪不成立という判断の言明であるが、不起訴処分の事例も見当たらない。つまり、撒骨が遺骨遺棄罪になるか否かに関する検察官の判断は、肯定も否定も未だ示されておらず、この点でも「灰色」なのである。

[3] 撒骨に関する法務省の「行政解釈」も「事実上の公式見解」も存在しない
 裁判所以外の官庁も法解釈を行うが、行政官庁職員の法解釈が直ちに行政解釈になる訳ではない。法令所定の職務としてなされる法解釈であってこそ、裁判所によって否定されない限り、有権的な法解釈として通用する。
 官庁が通知・回答といった形式で示す法解釈は、行政解釈の一例である。厚生労働省が葬送に関して墓埋法に基づく規制の対象になるか否かを判断することは、同法所轄官庁としての行政解釈である。法務省も、例えば刑執行に際して刑事施設法の行政解釈を行う。
 しかし、報道機関や公衆に法解釈を示すことは、法令所定の法務省の職務に属さない。職務外事項に関する行政解釈は、あり得ない。撒骨の適否について法務省から通知・回答が発せられたという事実は、存在しない。
 また、例えば官庁幹部達の編集・執筆による法令解説書の記述なら、現場実務は大抵これに従うだろうから、「事実上の公式見解」と評し得る。でも、逆らうことは法的に可能だし、撒骨は適法だと述べる法務省幹部編集解説書が存在する訳でもない。
 撒骨を容認した法務官僚の見解は、行政解釈ではなく、事実上の公式見解と認めるに足る事情も確認できない。当該法務官僚1人の私見でしかない。

[4] 現時点での撒骨は実施者の自己責任
 撒骨の適法性を根拠付ける法律がない現行法の下で、撒骨の適否に関する国の法解釈は未定である。検察官が遺骨遺棄罪成立と判断して起訴する可能性も、裁判所がこれを支持して有罪判決を宣告する可能性も、未だ排除されていない。
 撒骨を実施する人は、起訴される可能性を認識しておかなければならない。起訴されたら、「国が公認した」という虚偽も「遺灰は遺骨に該当しない」という妄説も通用しない。犯罪不成立の合理的理由を主張できなければ、有罪認定・刑宣告を覚悟する他ない。
 喫緊の現実的リスクとは認め難いが、リスク皆無ではないことを知っておくべきである。起訴がないから検察官は犯罪不成立と判断していると推測することも可能だが、長らく放置されていた入れ墨が、「タトゥー」と称するものを含めて、突如として刑事立件されるようになったという近年の状況変化もある。撒骨に貼られた「適法性確認済」の「贋ラベル」が、本物に変わるか剥がされるか、未だ判らない。国の立法措置も司法判断も未だない「灰色」の現状下で撒骨を実施するなら、自己責任で訴追・処罰のリスクを引き受けなければならない。

 思い付きで6回も駄弁を弄した。御参考になる点があれば光栄である。
(平29・10・10)