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TOP >  ブログ >  2018年度 >  相続法が変わる(1)

相続法が変わる(1)


                                 愛知学院大学法務支援センター教授 田中 淳子

 問題です。子供たちが巣立ち、夫と二人で慎ましくも穏やかに暮らしていた妻が、夫の死を境に住み慣れた自宅(夫名義)を立ち退かねばならない、ということはあり得るのでしょうか。
 答えは、「あり得ます」。夫が生前にご商売をされ、銀行や金融機関、あるいは知人から借金をしていた場合、「相続」によって、夫の債務を相続人が引き継ぐことになります(包括承継といいます)。もちろん、夫の死亡を知ってから3か月以内に家庭裁判所に申述し、放棄することは可能です(民法938条)が、夫名義の居宅に住み続けるためには、借金を返すことが必要になります。
 それ以外にも自宅に住み続けることができない場合は考えられます。子供たちも夫の相続人(民法900条)ですので、居宅は、相続人の共同所有になります。相続分については、配偶者と子がいる場合は、配偶者が2分1、残りの2分の1を子供たちが均分相続します。この点について、近時、嫡出でない子(認知されていても当然には嫡出子ではない。民法は、あくまで法律婚関係にない男女の間に出生した子は嫡出でない子とする)の相続分も嫡出子と区別しない改正案をすでに了承(2013年)しているので、妻一人が独占して使用・収益できないのはもちろん、子供たちが「お母さん使っていいよ」と無償での使用に合意してくれる場合はよいのですが、「いや、家は古いから使わない。売って相続分を金銭で欲しい」と言われた場合、あるいは、相続人が先妻(夫)の子だけの場合や、嫡出でない子だけの場合、合意が形成できない場合が考えられます。高齢者の再婚の場合等も増加し、多額の現金を準備できない年老いた配偶者(事実婚パートナー)が居宅を手放さなくてはならないことが懸念されていました。
 そこで、民法・相続法を改正し、長年連れ添い、ともに居宅の取得・維持に貢献してきた配偶者については、相続人の実質的な平等を実現するため、「居住権」の創設を検討しています。現在、①短期的な居住権を保障する案と②長期的な居住権を保障する案が用意されています。①は、6か月間だけ無償使用する権利を保障する案、②は、配偶者と相続人らの不利益の程度等を総合的に考慮しては配偶者の生活維持のために必要と認める場合には終身の居住権を認める案です(残念ながら、今回の改正では、事実婚や親密な共同居住パートナー等には適用されません)。
(AGULS第10号(2018/05/25)掲載)