祭祀財産(遺骨・仏壇・墓)のゆくえ -その2
祭祀財産(遺骨・仏壇・墓等)のゆくえ 2
法務支援センター 田中淳子
今回は、前回の続きとして、祭祀財産を承継する「祭祀承継者」について解説をいたします。
民法の規定によれば(民法897条)、祭祀承継者は、まず、①被相続人が指定した者。指定の方法は、口頭、書面、明示、黙示でも有効です。次に、指定がない場合は、②その地方の慣習による。例えば、被相続人の住所地の慣習、出身地や職業上の慣習等から判断します。①②がない場合、あるいは明らかでない場合は、③家庭裁判所の審判で指定することになります。その場合、氏(姓)が同一である必要はなく、親族関係でなくてもよく、一人に限る必要はないし、祭具の承継者と墳墓の承継者が異なってもよい等、被相続人との身分関係、過去の生活関係、生活感情の緊密度、承継者、の意思や能力、承継者の祭祀主宰の意思や能力、祭祀との場所的関係(占有・管理状況)、祭具の取得の目的や管理等の経緯、その他利害関係人の意見等の一切の事情を総合して判断します。最近では、死者に対する慕情、愛情、感謝の気持ち等も考慮し祭祀承継者を決定しています。
では、祭祀の承継者になった場合、法律上どのような権利・義務が生じるのでしょうか。祭祀財産には、相続における承認や放棄の制度はないため、承継の放棄や辞退は、原則できません。祭祀承継者には祭祀財産の所有権が帰属しますので、結果として祭祀財産は、原則、売買、贈与等「自由」に処分も可能になると考えられています(広島高決昭和26年10月31日)。しかし、遺体・遺骨も本当に「自由」に「処分」できるのでしょうか。この点についての法令の明文規定はありませんが、裁判例によれば、祭祀承継者に祭祀財産を放棄する制度がないことや祭祀承継者は埋葬管理、祭祀供養を行う義務があるので、「祭祀」目的のためであれば遺体・遺骨を祭祀主宰者に帰属させ、具体的には、火葬・土葬等、遺体を「埋葬」するというかたちでの「処分」が可能である(最判平成元年7月18日)と考えられています。なお、臓器提供については、特別法の要件を充足した場合に限って、例外的に遺体の一部を臓器提供というかたちの「処分」が可能となります。
近時では、遺骨を引き取らない事例や分骨の請求、改葬トラブル等、遺骨の帰属を争う場合が少なからず存在します。裁判所の立場は、①遺体は相続人に帰属すると主張する立場(最判平成元年7月18日)、②喪主ないし祭祀主宰者に帰属すると主張する立場(高知地判平成8年10月23日)に分かれていますが、現在は、②の立場が有力です。なぜなら、遺骨の引取りを望まない遺族、家族間の押し付け合いや奪い合い等、祭祀承継は直系血族の系譜的祖先の祭祀という意識が薄れ、むしろ、夫婦・親子関係、近親の個人にとっての近親追慕祭祀へと祭祀の意義が変化しているからともいえます。祭祀承継という死後の法的問題を解決する重要な基準は、死者が生前「どう生きたか」ということでしょうか。
(AGULS第29号(2019/12/25)掲載)
法務支援センター 田中淳子
今回は、前回の続きとして、祭祀財産を承継する「祭祀承継者」について解説をいたします。
民法の規定によれば(民法897条)、祭祀承継者は、まず、①被相続人が指定した者。指定の方法は、口頭、書面、明示、黙示でも有効です。次に、指定がない場合は、②その地方の慣習による。例えば、被相続人の住所地の慣習、出身地や職業上の慣習等から判断します。①②がない場合、あるいは明らかでない場合は、③家庭裁判所の審判で指定することになります。その場合、氏(姓)が同一である必要はなく、親族関係でなくてもよく、一人に限る必要はないし、祭具の承継者と墳墓の承継者が異なってもよい等、被相続人との身分関係、過去の生活関係、生活感情の緊密度、承継者、の意思や能力、承継者の祭祀主宰の意思や能力、祭祀との場所的関係(占有・管理状況)、祭具の取得の目的や管理等の経緯、その他利害関係人の意見等の一切の事情を総合して判断します。最近では、死者に対する慕情、愛情、感謝の気持ち等も考慮し祭祀承継者を決定しています。
では、祭祀の承継者になった場合、法律上どのような権利・義務が生じるのでしょうか。祭祀財産には、相続における承認や放棄の制度はないため、承継の放棄や辞退は、原則できません。祭祀承継者には祭祀財産の所有権が帰属しますので、結果として祭祀財産は、原則、売買、贈与等「自由」に処分も可能になると考えられています(広島高決昭和26年10月31日)。しかし、遺体・遺骨も本当に「自由」に「処分」できるのでしょうか。この点についての法令の明文規定はありませんが、裁判例によれば、祭祀承継者に祭祀財産を放棄する制度がないことや祭祀承継者は埋葬管理、祭祀供養を行う義務があるので、「祭祀」目的のためであれば遺体・遺骨を祭祀主宰者に帰属させ、具体的には、火葬・土葬等、遺体を「埋葬」するというかたちでの「処分」が可能である(最判平成元年7月18日)と考えられています。なお、臓器提供については、特別法の要件を充足した場合に限って、例外的に遺体の一部を臓器提供というかたちの「処分」が可能となります。
近時では、遺骨を引き取らない事例や分骨の請求、改葬トラブル等、遺骨の帰属を争う場合が少なからず存在します。裁判所の立場は、①遺体は相続人に帰属すると主張する立場(最判平成元年7月18日)、②喪主ないし祭祀主宰者に帰属すると主張する立場(高知地判平成8年10月23日)に分かれていますが、現在は、②の立場が有力です。なぜなら、遺骨の引取りを望まない遺族、家族間の押し付け合いや奪い合い等、祭祀承継は直系血族の系譜的祖先の祭祀という意識が薄れ、むしろ、夫婦・親子関係、近親の個人にとっての近親追慕祭祀へと祭祀の意義が変化しているからともいえます。祭祀承継という死後の法的問題を解決する重要な基準は、死者が生前「どう生きたか」ということでしょうか。
(AGULS第29号(2019/12/25)掲載)