祭祀財産(遺骨・仏壇・墓)のゆくえ
愛知学院大学法務支援センター教授 田中 淳子
亡くなった家族を弔(とむら)うことは、当然のことのように思われるが、最近では、「供養されない遺骨」、「捨てられる遺骨」、「お墓の墓」という言葉を目にする。そもそも、弔(とむら)う、ということを放棄できるか。法律は、「生」あるものの問題だけではない。昨今、「終活」、「散骨」、「樹木葬」ひいては、「宇宙葬」等々、人の弔(とむら)い方にはいろいろな方法がある。どのような方法も自己決定の範囲として法的に問題はないのか。仮に、遺言で希望する祭祀の方法が指定されていた場合、遺族はその人の意思を必ず実現しなければならないのだろうか。あるいは、そのような意思に反し、遺骨、遺灰を相続財産(物や権利)と同じように分割したり、放棄したりすることは全く許されないのであろうか。
亡くなった人に帰属していた一切の財産(権利や義務)は、その人の死亡によって相続人に承継される(民法896条)。では、亡くなった方の遺体や遺骨、遺灰、代々受け継がれてきた仏壇や仏具、墓石や墓地等も、相続によって当然に相続人全員に承継されるのでしょうか。相続人がまったくいない場合、あるいは、相続人はいるが、長年音信普通である場合、実際に弔ってくれるのか。相続人が多数おり、共有状態なると弔いに支障が生じます。あるいは、遺産である不動産と同じように「放棄」できるのでしょうか。はたまた、相続人以外の親しい友人に弔ってほしい、という遺言が残されていた場合、この遺言内容に相続人は従うほかないのでしょうか。
民法897条には、第1項において系譜、祭具及び墳墓の所有権は、前条(896条)の規定にかかわらず、慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者が承継する。ただし、被相続人の指定に従って祖先の祭祀を主宰すべき者があるときは、その者が承継する。
同条2項では、1項本文の場合において慣習が明らかでないときは、同項の権利を承継すべき者は、家庭裁判所が定める、と規定されています。
したがって、弔うために用いる財産(祭祀財産:例えば、仏壇・仏具、墳墓等)は、相続財産ではなく、祭祀を執り行う人(祭祀承継者)が、祭祀をするために承継することになる。生前に指定されていれば、まずその人が祭祀承継者になり、それがなければ、慣習に則って決められ、当事者で決められなければ家裁が調停を通じて決めることになる。
では、祭祀の承継者とはどのような基準で決められていくのでしょうか。あらかじめ基準を知っておくことで解決の落としどころ、見通しを立てることができ、紛争自体を解決できます。
そこで、次回は、裁判例を通じて形成されてきた祭祀承継者を決める場合の基準について、具体的事例を紹介しながらお伝えすることにいたします。
(AGULS第28号(2019/11/25)掲載)
亡くなった家族を弔(とむら)うことは、当然のことのように思われるが、最近では、「供養されない遺骨」、「捨てられる遺骨」、「お墓の墓」という言葉を目にする。そもそも、弔(とむら)う、ということを放棄できるか。法律は、「生」あるものの問題だけではない。昨今、「終活」、「散骨」、「樹木葬」ひいては、「宇宙葬」等々、人の弔(とむら)い方にはいろいろな方法がある。どのような方法も自己決定の範囲として法的に問題はないのか。仮に、遺言で希望する祭祀の方法が指定されていた場合、遺族はその人の意思を必ず実現しなければならないのだろうか。あるいは、そのような意思に反し、遺骨、遺灰を相続財産(物や権利)と同じように分割したり、放棄したりすることは全く許されないのであろうか。
亡くなった人に帰属していた一切の財産(権利や義務)は、その人の死亡によって相続人に承継される(民法896条)。では、亡くなった方の遺体や遺骨、遺灰、代々受け継がれてきた仏壇や仏具、墓石や墓地等も、相続によって当然に相続人全員に承継されるのでしょうか。相続人がまったくいない場合、あるいは、相続人はいるが、長年音信普通である場合、実際に弔ってくれるのか。相続人が多数おり、共有状態なると弔いに支障が生じます。あるいは、遺産である不動産と同じように「放棄」できるのでしょうか。はたまた、相続人以外の親しい友人に弔ってほしい、という遺言が残されていた場合、この遺言内容に相続人は従うほかないのでしょうか。
民法897条には、第1項において系譜、祭具及び墳墓の所有権は、前条(896条)の規定にかかわらず、慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者が承継する。ただし、被相続人の指定に従って祖先の祭祀を主宰すべき者があるときは、その者が承継する。
同条2項では、1項本文の場合において慣習が明らかでないときは、同項の権利を承継すべき者は、家庭裁判所が定める、と規定されています。
したがって、弔うために用いる財産(祭祀財産:例えば、仏壇・仏具、墳墓等)は、相続財産ではなく、祭祀を執り行う人(祭祀承継者)が、祭祀をするために承継することになる。生前に指定されていれば、まずその人が祭祀承継者になり、それがなければ、慣習に則って決められ、当事者で決められなければ家裁が調停を通じて決めることになる。
では、祭祀の承継者とはどのような基準で決められていくのでしょうか。あらかじめ基準を知っておくことで解決の落としどころ、見通しを立てることができ、紛争自体を解決できます。
そこで、次回は、裁判例を通じて形成されてきた祭祀承継者を決める場合の基準について、具体的事例を紹介しながらお伝えすることにいたします。
(AGULS第28号(2019/11/25)掲載)