新型コロナウイルスと労働問題1
法務支援センター特別教授(弁護士) 國田武二郎
Q:職場で新型コロナウイルスに感染した場合、会社に責任を問うことができるのでしょうか。その他、起こり得る労働問題
を教えて下さい。
A:4月7日、政府は、新型コロナウイルス対応の特別措置法に基づく緊急事態宣言を出しました。これにより、対象区域の
各知事は、外出自粛要請や施設の使用停止といった私権の制限を伴う措置が可能となりました。
各職場においても感染防止に向けて最大限努力しなければなりません。労働契約法5条は、「使用者は、労働契約に伴
い、労働者がその生命、身体などの安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。」と規定
し、また、労働安全衛生法3条なども「労働者の安全と健康を確保するようにしなければならない。」と規定しています。
つまり、使用者は、労働者の健康面を配慮するという健康配慮義務を労働契約の債務として負っているということです。し
たがって、新型コロナに対しても使用者として事業場内の感染防止策(マスクの着用、消毒液の設置、定期的な検温、多人
数の集合の禁止など)を積極的に講じる必要があります。そうした措置を講ぜず、漫然と勤務させた結果、労働者が感染し
た場合は、使用者側に債務不履行責任が問われ、損害賠償責任を負います。また、取引先で感染した場合は、労働災害とし
て認定を受けられる可能性があります。
そこで、使用者は、労働者にマスク着用を強要できるかですが、服務規程として着用を義務付けることは可能です。しか
し、マスクが不足していることから、着用していないことをもって、服務規程違反であるとして懲戒処分や注意の対象とす
ることは難しいと思います。したがって、義務付けるならば、使用者がマスクを準備して、それを配布することが望ましい
と思います。なお、労働者がマスク着用を拒むなど感染防止に消極的で、その結果、感染した場合などは、労働者にも健康
保持義務違反(健康な労働力を使用者に提供する義務違反)があり、損害賠償を請求しても、労働者にも落ち度が有るとし
て過失相殺を主張され、賠償金額が低くなると思われます。
労働者を休業や自宅待機とした場合に給与の支払はどうなるかですが、会社の自主的判断で労働者を一斉に休業・自宅待
機させた場合は、使用者の責めに帰すべき事由による休業ということで、平均賃金の60%以上の休業手当を支払う義務が
生じます(労働基準法26条)。しかし、行政側の要請や指示による休業の場合は、使用者の責めに帰すべき事由による休業
ではないので、支払義務は発生しないと考えます。
(2020年12月9日)
Q:職場で新型コロナウイルスに感染した場合、会社に責任を問うことができるのでしょうか。その他、起こり得る労働問題
を教えて下さい。
A:4月7日、政府は、新型コロナウイルス対応の特別措置法に基づく緊急事態宣言を出しました。これにより、対象区域の
各知事は、外出自粛要請や施設の使用停止といった私権の制限を伴う措置が可能となりました。
各職場においても感染防止に向けて最大限努力しなければなりません。労働契約法5条は、「使用者は、労働契約に伴
い、労働者がその生命、身体などの安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。」と規定
し、また、労働安全衛生法3条なども「労働者の安全と健康を確保するようにしなければならない。」と規定しています。
つまり、使用者は、労働者の健康面を配慮するという健康配慮義務を労働契約の債務として負っているということです。し
たがって、新型コロナに対しても使用者として事業場内の感染防止策(マスクの着用、消毒液の設置、定期的な検温、多人
数の集合の禁止など)を積極的に講じる必要があります。そうした措置を講ぜず、漫然と勤務させた結果、労働者が感染し
た場合は、使用者側に債務不履行責任が問われ、損害賠償責任を負います。また、取引先で感染した場合は、労働災害とし
て認定を受けられる可能性があります。
そこで、使用者は、労働者にマスク着用を強要できるかですが、服務規程として着用を義務付けることは可能です。しか
し、マスクが不足していることから、着用していないことをもって、服務規程違反であるとして懲戒処分や注意の対象とす
ることは難しいと思います。したがって、義務付けるならば、使用者がマスクを準備して、それを配布することが望ましい
と思います。なお、労働者がマスク着用を拒むなど感染防止に消極的で、その結果、感染した場合などは、労働者にも健康
保持義務違反(健康な労働力を使用者に提供する義務違反)があり、損害賠償を請求しても、労働者にも落ち度が有るとし
て過失相殺を主張され、賠償金額が低くなると思われます。
労働者を休業や自宅待機とした場合に給与の支払はどうなるかですが、会社の自主的判断で労働者を一斉に休業・自宅待
機させた場合は、使用者の責めに帰すべき事由による休業ということで、平均賃金の60%以上の休業手当を支払う義務が
生じます(労働基準法26条)。しかし、行政側の要請や指示による休業の場合は、使用者の責めに帰すべき事由による休業
ではないので、支払義務は発生しないと考えます。
(2020年12月9日)