4人の原田保教授
愛知学院大学教授 (刑事法) 原田保
同姓同名偽弁護士事件を素材とする授業の準備として、具体的印象を形成できるようにする意図で、受講者の知っている人物と同姓同名の人物を公務員や大学教員の名簿で探した。その際に、駄文筆者と同姓同名の大学教授を見つけた。駄文筆者を含めて列挙すると、
経営学 香川大学の後に多摩大学
医学 川崎医科大学
文学 四天王寺国際仏教大学 (現在の四天王寺大学)
法学 愛知学院大学
である。現在では既に退職した人もいるが、4人の「原田保教授」が同時期に実在していたのである。
そこで、論点整理・思考訓練のための事例問題を作った。
[問] 愛知学院大学の原田保教授が、多摩大学構内の掲示板に貼付する目的で、「来週の言語文化演習は休講です。医学博士・原田保教授」という文書を作成した。罪責如何。
文書偽造罪成否論証の際には、当該文書の名義人を特定しなければならない。通常は氏名による特定だが、同姓同名者の存在を考慮すると、これだけでは特定できないことがあるから、氏名以外の情報を付加することが多い。よく使用されるのは年齢・住所だが、前記設例では関係ない。
職業や資格等の肩書も、人物特定に使用される。前記設例では、教授職は4人共通だから特定手段にならないが、医学博士は川崎医科大学の原田保教授に固有の情報である。
偽弁護士事件判例は、文書の記載内容という、名義人表示以外の情報も名義人特定手段にした。前記設例の言語文化演習という科目名は、四天王寺国際仏教大学の原田保教授に固有の情報である。
然るに、行使対象者である多摩大学関係者が当該文書を見れば、当然に多摩大学の原田保教授を認識する筈である。他の大学でも同様であり、現に、多摩大学の原田保教授が書いた本を見て駄文筆者が経営学を論じていると誤解した愛知学院大学学生がいる。
行使対象者の認識は、偽弁護士事件判例の掲げる名義人特定手段に入っていないが、現実には名義人特定機能を担っている。だから、偽弁護士事件でも、当該文書を受領した人々が当該文書を以て認識する人物は被告人であって本物の弁護士ではないとの理由で名義人・作成者の同一性を肯定し、被告人の行為は非弁行為罪および肩書冒用罪であって文書偽造罪ではないと主張する見解もある。
尤も、行使対象者による名義人認識は、行使段階に至って初めて可能になる。文書偽造罪成否を論じる未行使の時点では、行使対象者は主観的目的の内容でしかなく、客観化していない。偽弁護士事件判例が行使対象者の認識を名義人特定手段に掲げなかった理由としては、特定の人々を想定すると社会法益犯罪の構造に合致しないことの他、文書作成時点での客観的特定が保証されないことも考慮された、と理解する余地もある。
前記設例では、異なる原田保教授に繋がる情報が混在している。名義人特定不能との理由で文書偽造罪成立を否定するか、1人に特定することはできないが作成者たる愛知学院大学の原田保教授でないことは明白だから名義冒用だと認めるか、使用する情報に優先順序を付けて1人に特定するか、愚問と評価して放置するか、各人の自由である。
(令3・3・22)
同姓同名偽弁護士事件を素材とする授業の準備として、具体的印象を形成できるようにする意図で、受講者の知っている人物と同姓同名の人物を公務員や大学教員の名簿で探した。その際に、駄文筆者と同姓同名の大学教授を見つけた。駄文筆者を含めて列挙すると、
経営学 香川大学の後に多摩大学
医学 川崎医科大学
文学 四天王寺国際仏教大学 (現在の四天王寺大学)
法学 愛知学院大学
である。現在では既に退職した人もいるが、4人の「原田保教授」が同時期に実在していたのである。
そこで、論点整理・思考訓練のための事例問題を作った。
[問] 愛知学院大学の原田保教授が、多摩大学構内の掲示板に貼付する目的で、「来週の言語文化演習は休講です。医学博士・原田保教授」という文書を作成した。罪責如何。
文書偽造罪成否論証の際には、当該文書の名義人を特定しなければならない。通常は氏名による特定だが、同姓同名者の存在を考慮すると、これだけでは特定できないことがあるから、氏名以外の情報を付加することが多い。よく使用されるのは年齢・住所だが、前記設例では関係ない。
職業や資格等の肩書も、人物特定に使用される。前記設例では、教授職は4人共通だから特定手段にならないが、医学博士は川崎医科大学の原田保教授に固有の情報である。
偽弁護士事件判例は、文書の記載内容という、名義人表示以外の情報も名義人特定手段にした。前記設例の言語文化演習という科目名は、四天王寺国際仏教大学の原田保教授に固有の情報である。
然るに、行使対象者である多摩大学関係者が当該文書を見れば、当然に多摩大学の原田保教授を認識する筈である。他の大学でも同様であり、現に、多摩大学の原田保教授が書いた本を見て駄文筆者が経営学を論じていると誤解した愛知学院大学学生がいる。
行使対象者の認識は、偽弁護士事件判例の掲げる名義人特定手段に入っていないが、現実には名義人特定機能を担っている。だから、偽弁護士事件でも、当該文書を受領した人々が当該文書を以て認識する人物は被告人であって本物の弁護士ではないとの理由で名義人・作成者の同一性を肯定し、被告人の行為は非弁行為罪および肩書冒用罪であって文書偽造罪ではないと主張する見解もある。
尤も、行使対象者による名義人認識は、行使段階に至って初めて可能になる。文書偽造罪成否を論じる未行使の時点では、行使対象者は主観的目的の内容でしかなく、客観化していない。偽弁護士事件判例が行使対象者の認識を名義人特定手段に掲げなかった理由としては、特定の人々を想定すると社会法益犯罪の構造に合致しないことの他、文書作成時点での客観的特定が保証されないことも考慮された、と理解する余地もある。
前記設例では、異なる原田保教授に繋がる情報が混在している。名義人特定不能との理由で文書偽造罪成立を否定するか、1人に特定することはできないが作成者たる愛知学院大学の原田保教授でないことは明白だから名義冒用だと認めるか、使用する情報に優先順序を付けて1人に特定するか、愚問と評価して放置するか、各人の自由である。
(令3・3・22)