グローバルナビゲーションへ

本文へ

ローカルナビゲーションへ

フッターへ



TOP >  ブログ >  2021年度 >  新型コロナウイルスと労働問題

新型コロナウイルスと労働問題


愛知学院大学法務支援センター特任教授・弁護士 岩井 羊一
 新型コロナウイルス感染症の感染防止のために緊急事態宣言が出たため、午後8時以降の営業を行わないことにした。ついては従業員であるあなたの仕事がなくなった、休業しなさい。そう言われた場合、その間の当該労働者の賃金はどうなるのでしょうか。
 賃金は労働の対価ですから、働かない以上、賃金は請求できないようにも考えられます。しかも、新型コロナウイルス感染症のために緊急事態宣言がでており、勤務先がこれに協力して営業時間を短縮するのであり、従業員も我慢しなければならないように思われるかもしれません。
 しかし、労働基準法は、使用者の責に帰すべき事由による休業の場合には、使用者は、休業期間中の休業手当(平均賃金の100分の60以上)を支払わないとされています。この使用者の責に帰すべき事由というのは、使用者の経営上の障害も天災事変などの不可抗力に該当しない限り含まれると考えられています。新型コロナウイルス感染症による緊急事態宣言の協力要請は、天災事変とまではいえないと考えられます。
 それだけではありません。たとえば、お店がもとから夜間の営業時間はメインではなく、時間短縮の影響が少ない場合や、飲食店ではなく影響が少ない場合等は、休業させる根拠が乏しく、そもそも休業手当だけでなく、賃金全額を支払わなければならないという解釈がなりたつ場合も十分にあります。
 このように法律解釈は個別事案毎に異なってきます。厚生労働省は、ホームページで「労働者がより安心して休むことができるよう、就業規則等により各企業において、100分の60を超えて(例えば100分の100)を支払うことを定めていただくことが望ましいものです。なお、休業手当を支払った場合、支給要件に合致すれば、雇用調整助成金の支給対象になります。」と指摘し、法律解釈はともかく、できる限り賃金全額を支払い、労働者が安心してはたらける制度を整えるように呼びかけています。
 新型コロナウイルス感染症により影響を受けているのは皆同じです。労働者の働く日数や時間が減ってからといって賃金を支払わない方向で考えるのではなく、雇用調整助成金を利用するなどして、労働者が安心して生活できる状況を作りだすことが、労使の信頼を高め、今後の事業の発展につながるはずです。労働者は、我慢する必要はありません。賃金が支払ってもらえなくなった場合、賃金を支払ってもらえるのではないか、弁護士や最寄りの労働基準監督署など専門家に相談し、賃金を請求してみてください。
 その他新型コロナウイルスの労働問題はたくさんあって、現在も対応に苦慮している企業や労働者がたくさんいると思います。厚生労働省がQ&Aをホームページで公表しています。このホームページ等を参考にしつつ、早期に専門家に相談することが良いと思います。また、法律上許されるか、請求できるかだけでなく、労働者が安心して働けるにはどうしたらよいか、という視点から労使双方が話し合って解決していくのが理想だと思います。
(AGULS第44号(2021/3/25)掲載 )