Q&A 選択的夫婦別姓制度
愛知学院大学法務支援センター特別教授・弁護士 國田 武二郎
Q:最近、「選択的夫婦別姓制度」についての記事をよく目にしますが、これはどのような制度でしょうか。そして、日本もこ
の制度が導入されるのでしょうか。
A:民法750条は「夫婦は、夫又は妻の氏を称する。」と定め、その規定を受けて戸籍法も夫婦の姓が同一であることを前提と
して戸籍を作成することを規定しています。つまり、日本では、法律上夫婦別姓は認められず、婚姻の際に一方が他方の姓
に変更しなければなりません。そして、現実には、男性の氏を選び、女性が氏を改める例が圧倒的多数です。しかし、女性
の社会的進出に伴い、結婚前に旧姓で仕事をしていて、その旧姓で社会的認知がされていたにもかかわらず、結婚で夫の氏
を名乗ったことから本人の同一性が確認できず、仕事上に不都合ができたということや、代々受け継がれてきた「氏」を大
切にしたいという感情を持つ人が増えていることから、特に、一人っ子同士の結婚のように「氏」を変えることが事実上婚
姻の障害となっていること等から、夫婦の双方が氏を変えることなく結婚することができるようにする「選択的夫婦別姓」
の制度の導入を希望する人が多くなってきました。そこで、婚姻の際に「同姓」又は「別姓」いずれを選択するかは、当事
者の自由な判断に委ねようというのがいわゆる「選択的夫婦別姓制度」です(「姓」や「名字」のことを法律上は「氏」
と呼んでいるので、正確には「選択的夫婦別氏制度」です。)。したがって、どちらが原則あるいは例外というものではあ
りません。また、法律上は別姓でも婚姻としては有効にしようという制度ですから、「事実婚」とも異なり配偶者として相
続権などもあります。問題は、子供が生まれた場合どちらの「姓」を名乗るかです。法制審議会では、婚姻の際にあらかじ
め子供が名乗る「姓」を決めておくとしています。また、子供が複数いる場合、子供の「姓」がバラバラでは子供達も困惑
するので全員「同じ姓」を名乗るとされています。
なお、現行の夫婦同姓制度は、家族生活における個人の尊厳と両性の平等を認めた憲法24条等に違反であるとした裁判
で、最高裁平成27年12月16日大法廷判決は「夫婦同氏は我が国の社会に定着しており家族の呼称を一つに定めることに合理
性があり、同制度には家族構成員であることを対外的に公示し識別する機能があるなどの意味がある」旨判示し、さらに
「もっとも、現状では妻となる女性が不利益を受ける場合が多いことは推認できるが、婚姻前の氏の通称使用が広まること
で一定程度緩和されている」等として合憲の判断を示しています。これに対し「社会の変化とともに、その合理性は徐々に
揺らぎ、少なくとも現時点においては、夫婦が別の氏を称することを認めないことは、個人の尊厳と両性の本質的平等の要
請に照らして合理性を欠き、憲法24条に違反する」との反対意見もあり、裁判官の中でも見解が別れています。
したがって、今後この問題は、女性議員を中心にした多くの国会議員の賛同を得られれば、法的にも「選択的夫婦別氏の
制度」が認められる可能性は、近い将来あると思われます。
(AGULS第55号(2022/2/25)掲載 )
Q:最近、「選択的夫婦別姓制度」についての記事をよく目にしますが、これはどのような制度でしょうか。そして、日本もこ
の制度が導入されるのでしょうか。
A:民法750条は「夫婦は、夫又は妻の氏を称する。」と定め、その規定を受けて戸籍法も夫婦の姓が同一であることを前提と
して戸籍を作成することを規定しています。つまり、日本では、法律上夫婦別姓は認められず、婚姻の際に一方が他方の姓
に変更しなければなりません。そして、現実には、男性の氏を選び、女性が氏を改める例が圧倒的多数です。しかし、女性
の社会的進出に伴い、結婚前に旧姓で仕事をしていて、その旧姓で社会的認知がされていたにもかかわらず、結婚で夫の氏
を名乗ったことから本人の同一性が確認できず、仕事上に不都合ができたということや、代々受け継がれてきた「氏」を大
切にしたいという感情を持つ人が増えていることから、特に、一人っ子同士の結婚のように「氏」を変えることが事実上婚
姻の障害となっていること等から、夫婦の双方が氏を変えることなく結婚することができるようにする「選択的夫婦別姓」
の制度の導入を希望する人が多くなってきました。そこで、婚姻の際に「同姓」又は「別姓」いずれを選択するかは、当事
者の自由な判断に委ねようというのがいわゆる「選択的夫婦別姓制度」です(「姓」や「名字」のことを法律上は「氏」
と呼んでいるので、正確には「選択的夫婦別氏制度」です。)。したがって、どちらが原則あるいは例外というものではあ
りません。また、法律上は別姓でも婚姻としては有効にしようという制度ですから、「事実婚」とも異なり配偶者として相
続権などもあります。問題は、子供が生まれた場合どちらの「姓」を名乗るかです。法制審議会では、婚姻の際にあらかじ
め子供が名乗る「姓」を決めておくとしています。また、子供が複数いる場合、子供の「姓」がバラバラでは子供達も困惑
するので全員「同じ姓」を名乗るとされています。
なお、現行の夫婦同姓制度は、家族生活における個人の尊厳と両性の平等を認めた憲法24条等に違反であるとした裁判
で、最高裁平成27年12月16日大法廷判決は「夫婦同氏は我が国の社会に定着しており家族の呼称を一つに定めることに合理
性があり、同制度には家族構成員であることを対外的に公示し識別する機能があるなどの意味がある」旨判示し、さらに
「もっとも、現状では妻となる女性が不利益を受ける場合が多いことは推認できるが、婚姻前の氏の通称使用が広まること
で一定程度緩和されている」等として合憲の判断を示しています。これに対し「社会の変化とともに、その合理性は徐々に
揺らぎ、少なくとも現時点においては、夫婦が別の氏を称することを認めないことは、個人の尊厳と両性の本質的平等の要
請に照らして合理性を欠き、憲法24条に違反する」との反対意見もあり、裁判官の中でも見解が別れています。
したがって、今後この問題は、女性議員を中心にした多くの国会議員の賛同を得られれば、法的にも「選択的夫婦別氏の
制度」が認められる可能性は、近い将来あると思われます。
(AGULS第55号(2022/2/25)掲載 )