公立学校の教員の残業代
社会連携センター(法務支援)非常勤講師・弁護士 岩井 洋一
2022年6月28日、大阪地裁は、大阪府立高校の教諭が恒常的に長時間労働をして適応障害を発病したと訴えた事件において、教諭の訴えを認めて、230万円余りの支払を命じる判決を言い渡したとの報道がありました。報道によると、適応障害を発病する前の半年間の時間外労働の平均は1か月あたりおよそ100時間であったそうです。
学校の先生は、どうしてこのような長時間労働になるのでしょうか。その原因の一つとして、公立学校の教員の給与を定めた「給特法」とよばれる法律があります。
この法律は1971年に制定されました。この法律で、公立学校の先生の給与は、それまでの給料に4%を増額して調整額として支払われるようになったのです。もともと、先生の仕事は、勤務が特殊なので、残業を命じないように文部省が指導していました。そのかわり一般の公務員より1割程度高い俸給が支払われていたとされています。ところが、実際に学校の先生は、遅くまで残って仕事をしています。1960年代には、先生たちが、残業代を請求する訴訟を起こしました。残業代の請求を認める裁判例も出ました。そこで、国は、法律を定めて、給与月額4%の手当を支払うかわりに引き続き残業手当は原則支払わなくてよい、時間外勤務命令は、校外学習、修学旅行、非常災害等特殊な場合以外にはしないという法律をつくり運用をすることにしたのです。学校の先生に残業手当を支払わなくてもよい運用にしたのは、学校の先生の仕事は、残業代には馴染まないと言われてきたからです。(私立学校の先生には労基法が適用になりますから、この説明は適当ではありません。)
しかし、学校の先生の仕事はますます忙しくなっていきました。過労死する例もありました。
このようななかで、教員の働き方改革についても指摘がなされ、各地で改善のための取組がなされています。給特法の改正もなされ、忙しい時期の勤務時間を長くするかわりに、忙しくない時期の勤務時間を短くするといった措置を地方公共団体の判断でとれるようにする等という改正がなされました。しかし、教員の残業代を支払う方向での改正がありませんでしたから、働き方に大きく影響のある改正とはなっていません。
冒頭で述べた例のように長時間労働により健康を害したり、過労死したりする先生が、今も全国にいます。
先生になりたいという人が減っている、という状況があるそうです。その理由に長時間労働など働き方に原因があるといわれています。私たちは、学校の先生のサービス残業によって、子どもたちが公的な教育を受けられる制度の恩恵を受けていました。しかし、そのような制度は長く続かないと思います。今後の先生の不足が心配です。
給特法を廃止し、学校の先生に対しても労基法上の残業代を支払う義務があるとするべきです。労基法は、そうして残業の抑制を目指しているのです。先生に例外を設ける理由はありません。
(AGULS第61号(2022/8/25)掲載)
2022年6月28日、大阪地裁は、大阪府立高校の教諭が恒常的に長時間労働をして適応障害を発病したと訴えた事件において、教諭の訴えを認めて、230万円余りの支払を命じる判決を言い渡したとの報道がありました。報道によると、適応障害を発病する前の半年間の時間外労働の平均は1か月あたりおよそ100時間であったそうです。
学校の先生は、どうしてこのような長時間労働になるのでしょうか。その原因の一つとして、公立学校の教員の給与を定めた「給特法」とよばれる法律があります。
この法律は1971年に制定されました。この法律で、公立学校の先生の給与は、それまでの給料に4%を増額して調整額として支払われるようになったのです。もともと、先生の仕事は、勤務が特殊なので、残業を命じないように文部省が指導していました。そのかわり一般の公務員より1割程度高い俸給が支払われていたとされています。ところが、実際に学校の先生は、遅くまで残って仕事をしています。1960年代には、先生たちが、残業代を請求する訴訟を起こしました。残業代の請求を認める裁判例も出ました。そこで、国は、法律を定めて、給与月額4%の手当を支払うかわりに引き続き残業手当は原則支払わなくてよい、時間外勤務命令は、校外学習、修学旅行、非常災害等特殊な場合以外にはしないという法律をつくり運用をすることにしたのです。学校の先生に残業手当を支払わなくてもよい運用にしたのは、学校の先生の仕事は、残業代には馴染まないと言われてきたからです。(私立学校の先生には労基法が適用になりますから、この説明は適当ではありません。)
しかし、学校の先生の仕事はますます忙しくなっていきました。過労死する例もありました。
このようななかで、教員の働き方改革についても指摘がなされ、各地で改善のための取組がなされています。給特法の改正もなされ、忙しい時期の勤務時間を長くするかわりに、忙しくない時期の勤務時間を短くするといった措置を地方公共団体の判断でとれるようにする等という改正がなされました。しかし、教員の残業代を支払う方向での改正がありませんでしたから、働き方に大きく影響のある改正とはなっていません。
冒頭で述べた例のように長時間労働により健康を害したり、過労死したりする先生が、今も全国にいます。
先生になりたいという人が減っている、という状況があるそうです。その理由に長時間労働など働き方に原因があるといわれています。私たちは、学校の先生のサービス残業によって、子どもたちが公的な教育を受けられる制度の恩恵を受けていました。しかし、そのような制度は長く続かないと思います。今後の先生の不足が心配です。
給特法を廃止し、学校の先生に対しても労基法上の残業代を支払う義務があるとするべきです。労基法は、そうして残業の抑制を目指しているのです。先生に例外を設ける理由はありません。
(AGULS第61号(2022/8/25)掲載)