刑事に関する時効について
愛知学院大学特別教授・弁護士 國田武二郎
Q:名古屋市で26年前に主婦を殺害した女性が2025年(令和7年)10月31日に殺人罪で逮捕された事件が大きく報道されていますが、刑事に関する時効はどのように規定されているのでしょうか。
A:1999年(平成11年)11月13日に名古屋市内のアパートに住む主婦のA子さんが殺害されました。現場の血痕や目撃証言から、犯人は当時40歳から50歳の女性で事件当時手に怪我を負ったとみられていました。警察庁は、2020年から解決に結びつく情報提供者に上限300万円を支払う公的懸賞金対象事件にしました。ところが、26年後の2025年(令和7年)10月31日、犯人と思しき女性を殺人罪で逮捕し、未解決であった事件は急展開を迎えました。
刑事事件に関する時効には、「公訴の時効」と「刑の時効」の2種類がありますが、報道された事件は、「公訴の時効」に関連する事案です。すなわち、ある犯罪が生じてから一定期間を過ぎた場合は、時の経過により証拠が散逸してもはや真実を発見することが困難になっているという事情、また、時の経過により犯罪の社会的影響も少なくなり、応報、改善等の視点からの刑罰の必要性が減少ないし消滅している事情等から、もはや有罪・無罪を明らかにすることの利益ないし必要がないとして、犯人を処罰しないという制度です。かつては、殺人罪については、15年(その後、25年に延長)で時効が成立していました。しかし、殺された人の遺族からすれば、15年や25年の経過で犯人が処罰されなくなるということは許せるものではありません。おそらく終生犯人に対して激しい処罰感情を持ち続けるのではないでしょうか。現に、殺されたA子さんの夫は殺害された現場のアパートを26年間も借り続けて(家賃は2200万円を超えているとのこと)、事件当時の状態を保存し犯人が逮捕された場合に備えたというのですから、その思いは相当なものがあったと推測されます。こうした被害者遺族等の思いを尊重する観点から殺人罪についての時効は2010年(平成22年)改正で撤廃されました(また、現場に残された犯人の遺留物のDNA型鑑定が進化し、何十年経過しても、犯人の同一性を解明できるという科学鑑定の進歩も撤廃の理由です。)。
しかし、傷害罪等15年以下の拘禁刑は「10年」、窃盗罪、詐欺罪、恐喝罪、業務上横領罪等の10年以下の拘禁刑は「時効が7年」、横領罪等の5年以下の拘禁刑は「時効が5年」、名誉棄損罪等の3年以下の拘禁刑及び暴行罪、脅迫罪、器物損壊罪等の2年以下の拘禁刑は「時効は3年」となっており(刑訴法250条)、今なお、時効制度が存続されている犯罪もあります。ですから、警察に刑事告訴・告発をするとき、いつ被害にあったかをまず検討する必要があります。警察は、時効が完成している事件や時効間近な事件については、告訴等をしても通常、受理はしません。特に時効間近な事件については、警察が捜査して検察庁に送致して、検察官が起訴して始めて時効が停止するので、起訴しない限り捜査中でも時効は進行するからです。つまり、時効が完成していないことが起訴(処罰を)するための条件の一つなのです。
「刑の時効」は、判決を受けて刑が確定した後に、所在が不明になった場合の時効です。拘禁刑が、無期の場合は30年、10年以上の場合は20年、3年以上10年未満は10年、3年未満は5年、罰金ついては3年で刑の時効となり(刑法32条)、刑の執行がされなくなります。刑務所に入るのを避けるために、逃げ回る犯罪者もいますが、刑の執行は検察庁の仕事なので逃げ回っている犯罪者には、警察や公の機関等の協力を得て徹底的に所在を追求します。このため、健康保険や年金などの社会保険等の手当てなども受けることができず、また、親族とも連絡を取れず日々怯えながら孤立無援の孤独な生活を送るだけです。潔く刑に服して罪を償い社会復帰をする方が賢明だと思います。
※本号で100号になります。これからも、法曹養成の専門職大学院を担当してきた私達教員が、身近な話題などを法的な視点から解説し、読者の方々にご提供し、ご理解を深めていただく一助になればと思っております。
(AGULS100号(2025/11/25)掲載)
Q:名古屋市で26年前に主婦を殺害した女性が2025年(令和7年)10月31日に殺人罪で逮捕された事件が大きく報道されていますが、刑事に関する時効はどのように規定されているのでしょうか。
A:1999年(平成11年)11月13日に名古屋市内のアパートに住む主婦のA子さんが殺害されました。現場の血痕や目撃証言から、犯人は当時40歳から50歳の女性で事件当時手に怪我を負ったとみられていました。警察庁は、2020年から解決に結びつく情報提供者に上限300万円を支払う公的懸賞金対象事件にしました。ところが、26年後の2025年(令和7年)10月31日、犯人と思しき女性を殺人罪で逮捕し、未解決であった事件は急展開を迎えました。
刑事事件に関する時効には、「公訴の時効」と「刑の時効」の2種類がありますが、報道された事件は、「公訴の時効」に関連する事案です。すなわち、ある犯罪が生じてから一定期間を過ぎた場合は、時の経過により証拠が散逸してもはや真実を発見することが困難になっているという事情、また、時の経過により犯罪の社会的影響も少なくなり、応報、改善等の視点からの刑罰の必要性が減少ないし消滅している事情等から、もはや有罪・無罪を明らかにすることの利益ないし必要がないとして、犯人を処罰しないという制度です。かつては、殺人罪については、15年(その後、25年に延長)で時効が成立していました。しかし、殺された人の遺族からすれば、15年や25年の経過で犯人が処罰されなくなるということは許せるものではありません。おそらく終生犯人に対して激しい処罰感情を持ち続けるのではないでしょうか。現に、殺されたA子さんの夫は殺害された現場のアパートを26年間も借り続けて(家賃は2200万円を超えているとのこと)、事件当時の状態を保存し犯人が逮捕された場合に備えたというのですから、その思いは相当なものがあったと推測されます。こうした被害者遺族等の思いを尊重する観点から殺人罪についての時効は2010年(平成22年)改正で撤廃されました(また、現場に残された犯人の遺留物のDNA型鑑定が進化し、何十年経過しても、犯人の同一性を解明できるという科学鑑定の進歩も撤廃の理由です。)。
しかし、傷害罪等15年以下の拘禁刑は「10年」、窃盗罪、詐欺罪、恐喝罪、業務上横領罪等の10年以下の拘禁刑は「時効が7年」、横領罪等の5年以下の拘禁刑は「時効が5年」、名誉棄損罪等の3年以下の拘禁刑及び暴行罪、脅迫罪、器物損壊罪等の2年以下の拘禁刑は「時効は3年」となっており(刑訴法250条)、今なお、時効制度が存続されている犯罪もあります。ですから、警察に刑事告訴・告発をするとき、いつ被害にあったかをまず検討する必要があります。警察は、時効が完成している事件や時効間近な事件については、告訴等をしても通常、受理はしません。特に時効間近な事件については、警察が捜査して検察庁に送致して、検察官が起訴して始めて時効が停止するので、起訴しない限り捜査中でも時効は進行するからです。つまり、時効が完成していないことが起訴(処罰を)するための条件の一つなのです。
「刑の時効」は、判決を受けて刑が確定した後に、所在が不明になった場合の時効です。拘禁刑が、無期の場合は30年、10年以上の場合は20年、3年以上10年未満は10年、3年未満は5年、罰金ついては3年で刑の時効となり(刑法32条)、刑の執行がされなくなります。刑務所に入るのを避けるために、逃げ回る犯罪者もいますが、刑の執行は検察庁の仕事なので逃げ回っている犯罪者には、警察や公の機関等の協力を得て徹底的に所在を追求します。このため、健康保険や年金などの社会保険等の手当てなども受けることができず、また、親族とも連絡を取れず日々怯えながら孤立無援の孤独な生活を送るだけです。潔く刑に服して罪を償い社会復帰をする方が賢明だと思います。
※本号で100号になります。これからも、法曹養成の専門職大学院を担当してきた私達教員が、身近な話題などを法的な視点から解説し、読者の方々にご提供し、ご理解を深めていただく一助になればと思っております。
(AGULS100号(2025/11/25)掲載)

