冤罪・再審に関する議論の欠落点
愛知学院大学名誉教授・弁護士 原田保
再審制度改革に関して、議論が見当たらない問題点について略述する。
Ⅰ 「入口」問題
再審請求の対象は有罪判決だけてあるが、執行猶予中の再犯という嫌疑で遵守事項違反による執行猶予取消・刑執行開始の後に、当該再犯に関する被告事件で犯罪事実不存在・無罪が宣告された事例が存在する。検察官は恩赦による執行免除という措置を執ったが、執行猶予満期による刑消滅の機会を失したという事実は変更されない。実例があるのに、執行猶予取消決定を再審請求対象に追加する提案は見当たらない。
Ⅱ 「出口」問題
1 再審公判における刑宣告の可否
刑事訴訟法452条の不利益変更禁止は再審公判の刑宣告を前提とする規定であるが、刑宣告があり得る状況は、
(1)原判決認定と同一の罪が認定された合
(2)原判決認定より軽い罪が認定されて訴因変更不要である場合
(3)原判決で再審対象外犯罪が認定されて刑が吸収されていた場合
である。(1)での刑宣告は当然としても、(2)(3)では問題がある。
(2)は再審請求事由であるが、再審判決が再審開始決定の認定に拘束される訳ではない。例えば、殺人罪を認定した原判決について過失致死罪認定を理由として開始された再審公判において、過失致死罪成立の認定はできない。それは処罰のための訴因変更が再審制度の目的に反するからであるが、そうであるなら縮小認定による傷害致死罪成立認定の許容は一貫性を欠く。そもそも、この設例の場合に求められているのは殺人罪不成立の認定であって傷害致死罪成立や過失致死罪成立の認定ではない。再審対象訴因が認定できないなら、別の訴因に言及することなく当該訴因に関する無罪を宣告することが、再審制度の目的に沿う筈である。
(3)は再審有罪判決の最多事例であり、現実問題として検討を要する。再審判決が確定すると原判決は失効するが、再審判決は余罪に言及していないから、原判決の余罪認定は失効することなく存続する。故に、有罪事実に対する刑の欠落を回避するべく再審判決で当該余罪に対する刑を宣告する。しかし、再審制度の目的は冤罪からの解放であり、余罪に対する適切な処罰は再審制度の目的から外れる。余罪に対する刑宣告の可否は、再審制度の目的という観点から検討を要する筈である。
2 再審判決宣告刑執行の可否
再審判決前に原判決宣告刑が一部でも執行されていた場合には、再審判決宣告刑執行による二重問責を回避するべく、再審判決宣告刑から原判決宣告刑執行済部分を控除して残余部分のみを執行するべきものと解されている。しかし、この引き算が可能なのは同種刑の場合だけである。懲役を執行された弘前大学教授殺し事件では罰金5000円、死刑囚として拘置された免田事件では懲役6月、というのが、再審判決宣告刑である。前者では未決勾留算入、後者では執行猶予、という方法で執行を回避したが、どちらも要件具備がなければ不可能である。最後の手段は恩赦であるが、非常口を使用しなければ憲法違反の二重問責を回避できないというのは制度的欠陥以外の何物でもない。放置は絶対に許容できない。
Ⅲ 「出口の外」問題
再審でも通常手続でも、雪冤で対応完了になる訳ではなく、補償・社会復帰支援の検討を要する。30年を超える刑事補償金額据置も、冤罪被害者に対する社会復帰支援制度の不備も、令7・4・3ブログで述べたが、放置は理解不可能である。
(令7・12・16)
再審制度改革に関して、議論が見当たらない問題点について略述する。
Ⅰ 「入口」問題
再審請求の対象は有罪判決だけてあるが、執行猶予中の再犯という嫌疑で遵守事項違反による執行猶予取消・刑執行開始の後に、当該再犯に関する被告事件で犯罪事実不存在・無罪が宣告された事例が存在する。検察官は恩赦による執行免除という措置を執ったが、執行猶予満期による刑消滅の機会を失したという事実は変更されない。実例があるのに、執行猶予取消決定を再審請求対象に追加する提案は見当たらない。
Ⅱ 「出口」問題
1 再審公判における刑宣告の可否
刑事訴訟法452条の不利益変更禁止は再審公判の刑宣告を前提とする規定であるが、刑宣告があり得る状況は、
(1)原判決認定と同一の罪が認定された合
(2)原判決認定より軽い罪が認定されて訴因変更不要である場合
(3)原判決で再審対象外犯罪が認定されて刑が吸収されていた場合
である。(1)での刑宣告は当然としても、(2)(3)では問題がある。
(2)は再審請求事由であるが、再審判決が再審開始決定の認定に拘束される訳ではない。例えば、殺人罪を認定した原判決について過失致死罪認定を理由として開始された再審公判において、過失致死罪成立の認定はできない。それは処罰のための訴因変更が再審制度の目的に反するからであるが、そうであるなら縮小認定による傷害致死罪成立認定の許容は一貫性を欠く。そもそも、この設例の場合に求められているのは殺人罪不成立の認定であって傷害致死罪成立や過失致死罪成立の認定ではない。再審対象訴因が認定できないなら、別の訴因に言及することなく当該訴因に関する無罪を宣告することが、再審制度の目的に沿う筈である。
(3)は再審有罪判決の最多事例であり、現実問題として検討を要する。再審判決が確定すると原判決は失効するが、再審判決は余罪に言及していないから、原判決の余罪認定は失効することなく存続する。故に、有罪事実に対する刑の欠落を回避するべく再審判決で当該余罪に対する刑を宣告する。しかし、再審制度の目的は冤罪からの解放であり、余罪に対する適切な処罰は再審制度の目的から外れる。余罪に対する刑宣告の可否は、再審制度の目的という観点から検討を要する筈である。
2 再審判決宣告刑執行の可否
再審判決前に原判決宣告刑が一部でも執行されていた場合には、再審判決宣告刑執行による二重問責を回避するべく、再審判決宣告刑から原判決宣告刑執行済部分を控除して残余部分のみを執行するべきものと解されている。しかし、この引き算が可能なのは同種刑の場合だけである。懲役を執行された弘前大学教授殺し事件では罰金5000円、死刑囚として拘置された免田事件では懲役6月、というのが、再審判決宣告刑である。前者では未決勾留算入、後者では執行猶予、という方法で執行を回避したが、どちらも要件具備がなければ不可能である。最後の手段は恩赦であるが、非常口を使用しなければ憲法違反の二重問責を回避できないというのは制度的欠陥以外の何物でもない。放置は絶対に許容できない。
Ⅲ 「出口の外」問題
再審でも通常手続でも、雪冤で対応完了になる訳ではなく、補償・社会復帰支援の検討を要する。30年を超える刑事補償金額据置も、冤罪被害者に対する社会復帰支援制度の不備も、令7・4・3ブログで述べたが、放置は理解不可能である。
(令7・12・16)

