死体遺棄罪に関する理論およびし実務の問題点
愛知学院大学名誉教授・弁護士 原田保
Ⅰ 死体隠匿
死体隠匿を以て死体遺棄罪の成立を認める見解が支配的になっている。その根拠としては、死体隠匿による死体発見困難化が適時の葬送に対する妨害になり、これが死体遺棄罪の法益に対する侵害である、と論じられている。しかし、この解釈には、問題がある。
第1に、不葬送状態の帰責方法が不合理である。葬送は葬送義務者が遂行するべきものであるから、不葬送状態は葬送義務者の不作為に他ならない。死体隠匿は葬送義務者の非故意不作為状態を作出するが、この行為の構造は身分犯の間接正犯であり、現行刑法では処罰できない。葬送妨害の論理は、身分犯たる不作為犯の間接正犯を作為犯に偽装して身分問題を回避する処罰方法であり、実行行為の構造に反している。
第2に、露出との対比を怠って隠匿の意義を誤解している。隠匿によって成立する死体遺棄罪は、露出によって不成立になる筈である。しかし、例えば北海道日高市で令和8年1月に発覚した「壁の中の死体」事件で、壁が透明ガラス板なら死体遺棄罪不成立という解釈は、あり得ない。そこにある死体の現状が公衆感情を害するのであり、隠匿・露出は関係ない。死体の現状を評価せず将来の葬送を論じることは、論点齟齬である。
第3に、刑法188条2項の葬式妨害罪を無視している。現に遂行されようとしている葬式に対する具体的妨害が上限1年の同罪であることと対比して、将来の葬送に対する抽象的妨害を上限3年の死体遺棄罪とすることは、合理的説明の不可能軽重逆転である。また、単一の妨害に両罪成立を肯定するなら、二重評価である。
第4に、検視の必要性を無視している。死体が発見された場合にはまず検視が必要であり、未検視死体の葬送は刑法192条の変死者密葬罪に該当する違法行為である。検視未了の故に葬送が禁止されている時点での葬送妨害という違法評価は背理であり、前提を欠く違法評価という論理飛躍を犯している。
以上の問題が悉く克服されない限り、死体隠匿を以て死体遺棄罪の成立を認める解釈は支持し得ない。なお、最二小判昭24・11・26出典判例集の「判決要旨」には死体隠匿が死体遺棄罪に該当する旨の記載があるが、判決文に同旨判示は存在しない。故に、同判例が死体隠匿を以て死体遺棄罪の成立を認めたと解することはできない。
Ⅱ 死体放置
死体に対して必要な措置を執らない不作は「放置」と表現されるが、不作為犯の成立には作為義務の論証を要する。死体に対しては葬送を要するところ、葬送は原則的に親族の義務である。加江田塾ミイラ事件で親族への死体引渡義務・死体監護義務を以て非親族の不作為死体遺棄罪成立が肯定された際の作為義務発生根拠は、生存中の保護責任である。そのような事情がない事案で非親族による死体放置を不作為死体遺棄罪と認めるためには、別の事情に基づく作為義務の論証を要する。
しかし、作為義務論証を欠く不作為死体遺棄罪認定事例は、現に存在する。報道によれば、栃木女子高生死体事件では「放置して遺棄した」と認定された由であり、同様の認定が報じられた事件は他にもあるが、いずれも作為義務に関する情報は見当たらない。また、どの事件でも、事実関係に鑑みれば軽犯罪法1条18号の死体不申告罪を論じるべきであると認められるが、同罪成否検討の形跡は見当たらない。作為義務論証欠落および現存罰則無視という重大な問題は、到底看過できない。
(令8・3・14)
Ⅰ 死体隠匿
死体隠匿を以て死体遺棄罪の成立を認める見解が支配的になっている。その根拠としては、死体隠匿による死体発見困難化が適時の葬送に対する妨害になり、これが死体遺棄罪の法益に対する侵害である、と論じられている。しかし、この解釈には、問題がある。
第1に、不葬送状態の帰責方法が不合理である。葬送は葬送義務者が遂行するべきものであるから、不葬送状態は葬送義務者の不作為に他ならない。死体隠匿は葬送義務者の非故意不作為状態を作出するが、この行為の構造は身分犯の間接正犯であり、現行刑法では処罰できない。葬送妨害の論理は、身分犯たる不作為犯の間接正犯を作為犯に偽装して身分問題を回避する処罰方法であり、実行行為の構造に反している。
第2に、露出との対比を怠って隠匿の意義を誤解している。隠匿によって成立する死体遺棄罪は、露出によって不成立になる筈である。しかし、例えば北海道日高市で令和8年1月に発覚した「壁の中の死体」事件で、壁が透明ガラス板なら死体遺棄罪不成立という解釈は、あり得ない。そこにある死体の現状が公衆感情を害するのであり、隠匿・露出は関係ない。死体の現状を評価せず将来の葬送を論じることは、論点齟齬である。
第3に、刑法188条2項の葬式妨害罪を無視している。現に遂行されようとしている葬式に対する具体的妨害が上限1年の同罪であることと対比して、将来の葬送に対する抽象的妨害を上限3年の死体遺棄罪とすることは、合理的説明の不可能軽重逆転である。また、単一の妨害に両罪成立を肯定するなら、二重評価である。
第4に、検視の必要性を無視している。死体が発見された場合にはまず検視が必要であり、未検視死体の葬送は刑法192条の変死者密葬罪に該当する違法行為である。検視未了の故に葬送が禁止されている時点での葬送妨害という違法評価は背理であり、前提を欠く違法評価という論理飛躍を犯している。
以上の問題が悉く克服されない限り、死体隠匿を以て死体遺棄罪の成立を認める解釈は支持し得ない。なお、最二小判昭24・11・26出典判例集の「判決要旨」には死体隠匿が死体遺棄罪に該当する旨の記載があるが、判決文に同旨判示は存在しない。故に、同判例が死体隠匿を以て死体遺棄罪の成立を認めたと解することはできない。
Ⅱ 死体放置
死体に対して必要な措置を執らない不作は「放置」と表現されるが、不作為犯の成立には作為義務の論証を要する。死体に対しては葬送を要するところ、葬送は原則的に親族の義務である。加江田塾ミイラ事件で親族への死体引渡義務・死体監護義務を以て非親族の不作為死体遺棄罪成立が肯定された際の作為義務発生根拠は、生存中の保護責任である。そのような事情がない事案で非親族による死体放置を不作為死体遺棄罪と認めるためには、別の事情に基づく作為義務の論証を要する。
しかし、作為義務論証を欠く不作為死体遺棄罪認定事例は、現に存在する。報道によれば、栃木女子高生死体事件では「放置して遺棄した」と認定された由であり、同様の認定が報じられた事件は他にもあるが、いずれも作為義務に関する情報は見当たらない。また、どの事件でも、事実関係に鑑みれば軽犯罪法1条18号の死体不申告罪を論じるべきであると認められるが、同罪成否検討の形跡は見当たらない。作為義務論証欠落および現存罰則無視という重大な問題は、到底看過できない。
(令8・3・14)

