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撒骨(散骨)に関する行政官庁の権限 [撒骨・その17]


愛知学院大学名誉教授・弁護士 原田保

 行政機関の権限は、立法機関から付与される。これは、法治国家の基本的方法である。国の官庁の権限は、国会が制定した「〇〇省設置法」等の法律に規定されたものだけである。
 現時点で、撒骨に関する権限を規定した法律は存在しない。故に、どの官庁も撒骨に対する許可・規制はできない。尤も、「埋葬」という文言で葬送全般を意味する用語法があるので、厚生労働省がこれに依拠して墓地埋葬法所轄官庁たる同省は葬送全般に関する権限を有すると主張する可能性がある。しかし、同法は「埋葬」という文言を土葬の意味に定義しているから、同法の定義と異なる意味を以て同法に基づく権限を主張することは矛盾以外の何物でもなく、同法によっても撒骨に関する権限は導き得ない。官庁が撒骨を認めたという言説は、許可権限不存在を看過している。官庁か撒骨を黙認しているという言説は、規制権限不存在を看過している。撒骨に関する許可も黙認も、存在し得ないのである。
 また、撒骨については遺骨遺棄罪成否という刑法解釈が問題になるところ、法務省についても厚生省・厚生労働省についても、この点の法解釈を伴う権限を規定した法律は存在しない。故に、これらの官庁の撒骨に関する行政解釈は、制度上あり得ない。故に、法解釈に関する官庁の見解表明もあり得ない。「非公式」とか「事実上」とかいった修飾語を付するとしても、「官庁の」見解であると認めるためには職員間の共通認識であることを要する。しかし、撒骨適法説が職員間の共通認識であることを示す情報は見当たらない。逆に、異なる見解を表明した実例は文献で確認できる。故に、撒骨適法説は、如何なる意味でも、官庁の見解であるとは絶対に認められない。この点に関する法解釈の権限を有するのは、遺骨遺棄被疑事件の起訴・不起訴を判断する検察官および検察官が起訴した場合に同罪成否を判断する裁判所だけである。そして、裁判所の法解釈が国としての結論であるが、現時点で撒骨の法的評価を示した判例は存在しない。故に、撒骨の法的評価は、依然として未解決問題である。以下、行政官庁の見解表明だと誤解されている事態について、真実の実態を述べる。

 平成3年に表明された「節度を以て行われる限り問題ない」という見解は、某法務官僚の私見である。この官僚は「葬送の自由をすすめる会」の会員だという有力情報があり、これを「法務省公式見解」と報じた朝日新聞は同会創始者の元勤務先である。つまり、自作自演・自画自賛による適法評価偽装である。
 平成10年に厚生省が撒骨の自由を認めたという言説があるが、実態は同省所轄懇談会の見解であって厚生省という国家機関の見解ではない。見解主体の擦り替えは、平成3年の法務官僚見解の場合と同様である。報告には節度ある撒骨は処罰不可と解されている旨の言説があるが、そのような判例・学説は存在しない。刑法研究者不在の場で、法務官僚の私見を恰も唯一絶対の刑法解釈であるかのように引用し、適法評価偽装を追認したのである。
 令和3年に厚生労働省が「散骨ガイドライン」を制定したという言説があるが、真実は同省所轄研究会によるものであり、やはり見解主体の擦り替えが行われている。内容は撒骨業者に対するアンケート調査に基づくものであり、業界の営業実態への権威付与である。

 以上に指摘した通り、官庁の名を掲げて撒骨が適法であると主張する言説は、官庁の権限に関する理解不足に起因する誤謬である。
(令8・4・10)