死体遺棄罪と他罪との関係に関する問題点
愛知学院大学名誉教授・弁護士 原田保
Ⅰ 変死者密葬罪・墓地外埋葬罪等との区別
変死者密葬罪の法益は捜査端緒であり、墓地外埋葬罪等の法益は公衆衛生であるが、実行行為はどちらも葬送である。死体遺棄罪の法益は公衆感情であり、それは葬送によって保全される。故に、変死者密葬罪・墓地外埋葬罪等の実行行為は、死体遺棄罪の法益を保全する行為である。こうして、死体に対する葬送と遺棄とは、相互排他的関係にある。
そこで、葬送と遺棄との区別基準を明示しなければならない。駄文筆者は令元・8・25ブログ(ブログ集vol.3(令2)26頁)で「公然性」の有無による区別を提唱した。賛否の議論を期待している。
Ⅱ 死体不申告罪との関係
不作為死体遺棄罪に問われた事件の大多数で、死体不申告罪構成要件該当性を認め得る。しかし、同罪を無視して死体遺棄罪だけで立件する例が多く、かかる実務の常態化が窺われる。両罪の法益は異なるから、2罪成立という解釈に支障は存在しない。軽犯罪たる死体不申告罪では現行犯逮捕に制約があるが、「死体があれば死体遺棄罪」という短絡思考により死体不申告罪を看過している可能性が危惧される。
熊本死産児事件で最高裁判所によって死体遺棄罪が否定され、同罪での立件は誤謬であったことが確認された。それにも拘わらず、名古屋ネットカフェ新生児死体事件も死体遺棄罪で立件されており、同じ誤謬が反復されている。実に遺憾である。
Ⅲ 未検視死体に関する変死者密葬罪との衝突
死者の親族による葬送不遂行が不作為死体遺棄罪に問われた事例は多数存在するが、どの事例の死体も検視を経ていない。未検視死体の葬送は変死者密葬罪構成要件に該当するが、同罪に基づく葬送禁止は不作為死体遺棄罪の前提たる葬送義務と衝突する。判例・学説にこの問題の検討は見当たらないが、放置できない矛盾である。
どちらかの規範を否定すれば矛盾は解消されるが、葬送義務の根拠となる事情が存在する限り葬送義務は消滅しない。それでも変死者密葬罪に基づいて葬送が禁止されるなら、葬送の前提たる検視が未了であるから葬送義務は履行期に至っておらず、義務違反の違法評価はできないと解する他ない。このように解するなら、未検視死体に対する不作為死体遺棄罪は成立不可能であり、同罪認定判例は誤謬であることになる。
しかし、葬送の前提たる検視は、親族が死体の存在を公務員に申告すれば実施される。親族は「検視を経て葬送する」義務を負うのであり、公務員に死体の存在を申告して検視の契機を提供することはこの義務の一部である。葬送の前提が充足されないのは親族の申告義務不履行という違法行為の結果であり、親族に帰責される未検視状態は不葬送に対する違法評価を妨げる理由にならない。原因において違法な行為の法理により、死体申告義務違反と共に葬送義務違反の違法評価も受けると解し得る。このように解するなら、未検視死体に対する不作為死体遺棄罪は成立可能であり、同罪認定判例は是認できることになる。
以上に述べたように、葬送義務と葬送禁止との衝突への対応として、履行期未到来を理由に葬送義務違反を否定するか、原因において違法な行為の法理により葬送義務違反の違法評価を行うか、どちらが適切な刑法解釈であるのか、駄文筆者としては未だ確信に至っていない。御教示を念願するところである。
(令8・7・13)
Ⅰ 変死者密葬罪・墓地外埋葬罪等との区別
変死者密葬罪の法益は捜査端緒であり、墓地外埋葬罪等の法益は公衆衛生であるが、実行行為はどちらも葬送である。死体遺棄罪の法益は公衆感情であり、それは葬送によって保全される。故に、変死者密葬罪・墓地外埋葬罪等の実行行為は、死体遺棄罪の法益を保全する行為である。こうして、死体に対する葬送と遺棄とは、相互排他的関係にある。
そこで、葬送と遺棄との区別基準を明示しなければならない。駄文筆者は令元・8・25ブログ(ブログ集vol.3(令2)26頁)で「公然性」の有無による区別を提唱した。賛否の議論を期待している。
Ⅱ 死体不申告罪との関係
不作為死体遺棄罪に問われた事件の大多数で、死体不申告罪構成要件該当性を認め得る。しかし、同罪を無視して死体遺棄罪だけで立件する例が多く、かかる実務の常態化が窺われる。両罪の法益は異なるから、2罪成立という解釈に支障は存在しない。軽犯罪たる死体不申告罪では現行犯逮捕に制約があるが、「死体があれば死体遺棄罪」という短絡思考により死体不申告罪を看過している可能性が危惧される。
熊本死産児事件で最高裁判所によって死体遺棄罪が否定され、同罪での立件は誤謬であったことが確認された。それにも拘わらず、名古屋ネットカフェ新生児死体事件も死体遺棄罪で立件されており、同じ誤謬が反復されている。実に遺憾である。
Ⅲ 未検視死体に関する変死者密葬罪との衝突
死者の親族による葬送不遂行が不作為死体遺棄罪に問われた事例は多数存在するが、どの事例の死体も検視を経ていない。未検視死体の葬送は変死者密葬罪構成要件に該当するが、同罪に基づく葬送禁止は不作為死体遺棄罪の前提たる葬送義務と衝突する。判例・学説にこの問題の検討は見当たらないが、放置できない矛盾である。
どちらかの規範を否定すれば矛盾は解消されるが、葬送義務の根拠となる事情が存在する限り葬送義務は消滅しない。それでも変死者密葬罪に基づいて葬送が禁止されるなら、葬送の前提たる検視が未了であるから葬送義務は履行期に至っておらず、義務違反の違法評価はできないと解する他ない。このように解するなら、未検視死体に対する不作為死体遺棄罪は成立不可能であり、同罪認定判例は誤謬であることになる。
しかし、葬送の前提たる検視は、親族が死体の存在を公務員に申告すれば実施される。親族は「検視を経て葬送する」義務を負うのであり、公務員に死体の存在を申告して検視の契機を提供することはこの義務の一部である。葬送の前提が充足されないのは親族の申告義務不履行という違法行為の結果であり、親族に帰責される未検視状態は不葬送に対する違法評価を妨げる理由にならない。原因において違法な行為の法理により、死体申告義務違反と共に葬送義務違反の違法評価も受けると解し得る。このように解するなら、未検視死体に対する不作為死体遺棄罪は成立可能であり、同罪認定判例は是認できることになる。
以上に述べたように、葬送義務と葬送禁止との衝突への対応として、履行期未到来を理由に葬送義務違反を否定するか、原因において違法な行為の法理により葬送義務違反の違法評価を行うか、どちらが適切な刑法解釈であるのか、駄文筆者としては未だ確信に至っていない。御教示を念願するところである。
(令8・7・13)

