法律用語
愛知学院大学名誉教授・弁護士 原田保
法律用語の中には、社会一般で使われている言葉を違う意味で使っているものがあります。その幾つかを紹介します。
★ 天然果実
私が法学部に入学して最初に当惑した言葉です。果樹園の樹木に実った林檎や蜜柑を認識するのが普通だと思われますが、民法88条1項の規定によれば「天然果実」とは「物の用法に従い収取する産出物」です。だから、前記の林檎や蜜柑だけでなく、飼犬が生んだ子犬も天然果実です。動物を「果実」と呼ぶことに、私は違和感を覚えました。「天然果実」と並んで物の賃貸料等に使用される「法定果実」という概念もあり、民法88条2項に「物の使用の対価として受けるべき金銭」と規定されています。
天然果実も法定果実も、或る物から生じた別の物に対する所有権を論じる際に使用される概念ですが、「果実」以外に適切な言葉は存在しないのかどうか、個人的には疑念を抱いてします。
★ 善意・悪意
通常は「善いことをする意思」「悪いことをする意思」という意味で使用される言葉ですが、民法189条、190等に規定されている善意・悪意の意味は全く違います。法律上の要件に関わる特定の事実、「知らない」のが善意、「知っている」のが悪意、という意味であり、善い悪いという倫理的評価の意味はありません。
★ みなす
一般的には「評価する」とか「判定する」とかいった意味で使用されていますが、法律用語としては「違うものを同じく扱う」という意味で使用されます。例えば民法は、721条で 損害賠償について、886条1項で相続について、胎児を「既に生まれたものとみなす」と規定しています。未だ生まれていないけれど、既に生まれた人と同じく賠償請求権・相続権を持たせるための規定です。このような取扱は、「擬制」と呼ばれています。
★ 邸宅
刑法は「人の住居若しくは人の看守する邸宅、建造物若しくは艦船」を不法侵入罪の客体として130条に規定しています。私は、この「邸宅」という言葉を初めて見た際に、庶民の家とは別格の豪華壮大な家のことだと思いました。それが通常の理解だと推測されますが、注釈書等を見ると住居として建築されたが住居としての使用が行われていない建造物のことだと説明されています。「邸宅」という文字からどうしてこのような意味が導かれるのか、このような概念が必要であるのか、私には判りません。
(AGULS107号(2026/06/25)掲載)
法律用語の中には、社会一般で使われている言葉を違う意味で使っているものがあります。その幾つかを紹介します。
★ 天然果実
私が法学部に入学して最初に当惑した言葉です。果樹園の樹木に実った林檎や蜜柑を認識するのが普通だと思われますが、民法88条1項の規定によれば「天然果実」とは「物の用法に従い収取する産出物」です。だから、前記の林檎や蜜柑だけでなく、飼犬が生んだ子犬も天然果実です。動物を「果実」と呼ぶことに、私は違和感を覚えました。「天然果実」と並んで物の賃貸料等に使用される「法定果実」という概念もあり、民法88条2項に「物の使用の対価として受けるべき金銭」と規定されています。
天然果実も法定果実も、或る物から生じた別の物に対する所有権を論じる際に使用される概念ですが、「果実」以外に適切な言葉は存在しないのかどうか、個人的には疑念を抱いてします。
★ 善意・悪意
通常は「善いことをする意思」「悪いことをする意思」という意味で使用される言葉ですが、民法189条、190等に規定されている善意・悪意の意味は全く違います。法律上の要件に関わる特定の事実、「知らない」のが善意、「知っている」のが悪意、という意味であり、善い悪いという倫理的評価の意味はありません。
★ みなす
一般的には「評価する」とか「判定する」とかいった意味で使用されていますが、法律用語としては「違うものを同じく扱う」という意味で使用されます。例えば民法は、721条で 損害賠償について、886条1項で相続について、胎児を「既に生まれたものとみなす」と規定しています。未だ生まれていないけれど、既に生まれた人と同じく賠償請求権・相続権を持たせるための規定です。このような取扱は、「擬制」と呼ばれています。
★ 邸宅
刑法は「人の住居若しくは人の看守する邸宅、建造物若しくは艦船」を不法侵入罪の客体として130条に規定しています。私は、この「邸宅」という言葉を初めて見た際に、庶民の家とは別格の豪華壮大な家のことだと思いました。それが通常の理解だと推測されますが、注釈書等を見ると住居として建築されたが住居としての使用が行われていない建造物のことだと説明されています。「邸宅」という文字からどうしてこのような意味が導かれるのか、このような概念が必要であるのか、私には判りません。
(AGULS107号(2026/06/25)掲載)

