国旗損壊罪法について
愛知学院大学特別教授・弁護士 國田武二郎
Q:日本の国旗に刑罰を科す日本国旗損壊罪が成立したと報道されていますが、どんな法律ですか。教えて下さい。
A:令和8年度の国会でいくつの重要法案が成立しましたが、「日本国旗損壊罪法」の成立もその一つで同年7月24日に公布され、同年8月13日から施行されています。どのような犯罪であるかというと「人に著しく不快、嫌悪の情を催しさせる方法で公然と損壊、除去、汚損した場合、2年以下の拘禁刑または20万円以下の罰金を科す」ということになっています。
刑法では、外国の国旗などに対して、「外国国章損壊罪」という犯罪を規定してあり「侮辱を与える目的で、その国の国旗などを損壊し、除去し、又は汚損した者は、2年以下の拘禁刑又は20万円以下の罰金に処する。」とされています(刑法92条1項)。但し、「外国政府の請求がなければ公訴を提起することはできない」(同条2項)とも規定しているので、当該外国政府から「我が国が侮辱されたので強く処罰を求める」という処罰意思の請求を捜査当局に示さない限り、処罰されることはありません。また、刑法には、「器物損壊罪」という犯罪があり「他人の物を損壊した者は3年以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金若しくは科料に処する」と規定されています(刑法261条)。しかし、同罪は、親告罪で告訴がなければ処罰されません。
ところで、今回新しく成立した「国旗損壊罪法」は、特別法であり、刑法典のなかに組み込まれたものではありません。法益としては「国旗を大切に思う国民感情の保護」を目的とした社会的法益です(なお、「国旗」とは、国旗として用いられていると社会通念上認められるものをいい、「お子様ランチの旗」や「Tシャツに描かれた日の丸」は対象外です。)。したがって、国からの処罰請求や国旗の所有者の告訴がなくても、処罰の対象になります。さらに、当該国旗が自分の所有する国旗であっても、公衆の面前等で、破ったり、燃やしたり(損壊)、場所的に移転させたり(除去)、墨汁を塗ったり、泥靴で踏みつけたり(汚損)すれば処罰の対象になり得るということです。換言すれば、自分の家の物だから、当該国旗をどうしようと勝手だろうという理屈は通らず、自分の所有の国旗でも、損壊等の行為で他の人達が不快感を持った以上処罰対象になるということです。
しかし、「国旗を大切に思う国民感情」をあえて刑罰をもって保護する必要があるのか。いかなる行為が「著しく不快、嫌悪の情を催しさせる方法」なのか処罰対象が曖昧で、かつ、「不快、嫌悪の情」という主観的感情を基準にするのは「罪刑法定主義」(何が犯罪行為になるか事前に明確に法が規定すること)に反するのみならず、捜査機関による拡大解釈の恐れがあるのでないか。それでは、憲法19条で保護されている思想及び良心の自由を委縮させるのではないか等という反対意見や、今立法化しなければならないほど、日本国民は、日本国旗を粗末に扱っているのか。すなわち「立法事実」があるのかという議論などもあります。これに対して損壊や汚損といった行為の外形。周囲の状況などを客観的に判断するので表現の自由等に対する制約は小さいというのが、政府側の答弁です。こうしたことから「国旗への政治的意見や芸術表現の記載は処罰対象にしない」とする付帯決議も採択されています。こうしたことから、警察庁も、7月24日付通達で、国旗損壊罪の適用の有無については、警察としても十分検討し、通報者や目撃者への事情聴取のほか、現場周辺の防犯カメラの映像の確認等適正な対応を行うことを全国の警察に指示し、現行犯逮捕する場合でも「犯罪が明白で、犯人も明白である場合しか行うことができないことを留意する。」としています。
(AGULS109号(2026/08/25)掲載)
Q:日本の国旗に刑罰を科す日本国旗損壊罪が成立したと報道されていますが、どんな法律ですか。教えて下さい。
A:令和8年度の国会でいくつの重要法案が成立しましたが、「日本国旗損壊罪法」の成立もその一つで同年7月24日に公布され、同年8月13日から施行されています。どのような犯罪であるかというと「人に著しく不快、嫌悪の情を催しさせる方法で公然と損壊、除去、汚損した場合、2年以下の拘禁刑または20万円以下の罰金を科す」ということになっています。
刑法では、外国の国旗などに対して、「外国国章損壊罪」という犯罪を規定してあり「侮辱を与える目的で、その国の国旗などを損壊し、除去し、又は汚損した者は、2年以下の拘禁刑又は20万円以下の罰金に処する。」とされています(刑法92条1項)。但し、「外国政府の請求がなければ公訴を提起することはできない」(同条2項)とも規定しているので、当該外国政府から「我が国が侮辱されたので強く処罰を求める」という処罰意思の請求を捜査当局に示さない限り、処罰されることはありません。また、刑法には、「器物損壊罪」という犯罪があり「他人の物を損壊した者は3年以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金若しくは科料に処する」と規定されています(刑法261条)。しかし、同罪は、親告罪で告訴がなければ処罰されません。
ところで、今回新しく成立した「国旗損壊罪法」は、特別法であり、刑法典のなかに組み込まれたものではありません。法益としては「国旗を大切に思う国民感情の保護」を目的とした社会的法益です(なお、「国旗」とは、国旗として用いられていると社会通念上認められるものをいい、「お子様ランチの旗」や「Tシャツに描かれた日の丸」は対象外です。)。したがって、国からの処罰請求や国旗の所有者の告訴がなくても、処罰の対象になります。さらに、当該国旗が自分の所有する国旗であっても、公衆の面前等で、破ったり、燃やしたり(損壊)、場所的に移転させたり(除去)、墨汁を塗ったり、泥靴で踏みつけたり(汚損)すれば処罰の対象になり得るということです。換言すれば、自分の家の物だから、当該国旗をどうしようと勝手だろうという理屈は通らず、自分の所有の国旗でも、損壊等の行為で他の人達が不快感を持った以上処罰対象になるということです。
しかし、「国旗を大切に思う国民感情」をあえて刑罰をもって保護する必要があるのか。いかなる行為が「著しく不快、嫌悪の情を催しさせる方法」なのか処罰対象が曖昧で、かつ、「不快、嫌悪の情」という主観的感情を基準にするのは「罪刑法定主義」(何が犯罪行為になるか事前に明確に法が規定すること)に反するのみならず、捜査機関による拡大解釈の恐れがあるのでないか。それでは、憲法19条で保護されている思想及び良心の自由を委縮させるのではないか等という反対意見や、今立法化しなければならないほど、日本国民は、日本国旗を粗末に扱っているのか。すなわち「立法事実」があるのかという議論などもあります。これに対して損壊や汚損といった行為の外形。周囲の状況などを客観的に判断するので表現の自由等に対する制約は小さいというのが、政府側の答弁です。こうしたことから「国旗への政治的意見や芸術表現の記載は処罰対象にしない」とする付帯決議も採択されています。こうしたことから、警察庁も、7月24日付通達で、国旗損壊罪の適用の有無については、警察としても十分検討し、通報者や目撃者への事情聴取のほか、現場周辺の防犯カメラの映像の確認等適正な対応を行うことを全国の警察に指示し、現行犯逮捕する場合でも「犯罪が明白で、犯人も明白である場合しか行うことができないことを留意する。」としています。
(AGULS109号(2026/08/25)掲載)

