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撒骨 (散骨)・手元供養の論文を書いたが、 [撒骨・その7・回顧]


                                         愛知学院大学教授 (刑事法) 原田 保

「新たな葬法に関する遺骨遺棄罪等の成否」と題する論文を、平成30年3月刊行予定の愛知学院大学宗教法制研究所紀要58号に投稿した。これに関して、若干の所感を記しておく。内容紹介ではなく、調査過程で驚愕した事実の話である。もっと驚愕する事実を著名な葬送研究者から聞いたが、出典として引用註記できる文献がないので、その話は書かない。

 法務省刑事局参事官が、「公式見解」と明言して個人的見解による撒骨適法説を断言した。撒骨推進団体主宰者は、「国が公認した」と喧伝した。とんでもない大嘘! 法務省の見解なんか存在する筈がない。これで国による公認になる訳がない。説明すると論文の反復になるので、ここでは「法務省見解」不存在の明白な証拠1点を摘示するに留める。
 日本最大の註釈書である『大コンメンタール刑法』で、死体等に対する罪の担当筆者は「法務省見解」報道の時点で法務省刑事局付検事だった。この検事による撒骨関係の記述は、「法務省見解」の文字もなく、内容も異なる。公式でも非公式でも、「法務省見解」が本当に存在していたなら、法務省刑事局付検事はそれをそのまま書く筈だ。「法務省見解」と同じ記述が存在しないのは、「法務省見解」なるものが存在しなかったからだ。他に合理的説明方法はない。「法務省見解」が嘘であることは、この事実だけで十分に証明される。

 撒骨推進論を唱える法律家の中には、刑法に関する基本的理解を欠いている人がいる。シンポジウムや有識者会議の類でも、犯罪成否を論じているのに、刑法研究者不在のまま、間違った言説が法律家の肩書だけで通用している。
 「遺棄に該当しない」が「犯罪構成要件該当行為の違法性阻却」だとか、「拡張解釈」が「罪刑法定主義違反」だとか、そんなことを答案に書いたら基本事項理解欠如と評価されて不合格になる。「遺灰」は「遺骨」に該当しないという言説もあるが、そんなことを言う刑法研究者はいない。刑法研究者の撒骨適法説もあるが、それは「遺棄」の解釈によるものだ。遺灰を遺骨概念から外すと、遺灰に対してどんな酷いことをしても無罪、という非常識な結論になる。これは、100年前の刑法教科書で既に指摘されていたし、法学部1年生でも判ることだ、某大学法学部教授・法学博士・弁護士が語った「専門家の見解」には、こんな出鱈目がある。

 どんな嘘・出鱈目でも、当該分野の十分な知識がないと見破れないことが多い。官僚や専門家の肩書を掲げると、それたけで信じてしまう人は珍しくない。こんな状況に気付いていなかった自分を恥じるしかない。嘘・出鱈目が流布され始めた頃の駄文筆者は、別の事柄に取り組んでおり、深刻な事態を看過してしまった。今頃になって批判しても手遅れだ、という見解も当然にあり得る。
 でも、気付いたからには、言わなければならない。虚偽・誤謬・妄説を排除して、正しい認識・理解に基づいて、自分で考えて頂きたい。これは、刑法や宗教法の研究者だけに向けた発言ではない。この国の風俗・社会通念に関わる事柄だから、この国に居住する全ての人々に聞いて頂きたい。だから、学術誌以外の媒体でも述べることにした。駄文筆者の言説に接する人の数は判らないが、刑事宗教法を課題とする者の責務の一部と考えて、ブログでも述べた次第である。
(平29・10・31)