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取調可視化に関する私見


                                        愛知学院大学教授 (刑事法) 原田 保

 駄文筆者の私見は、取調の必要条件として「立会弁護士」制度を創設する、という至って単純なものである。以下、内容の概略を述べる。

 捜査機関は、取調の際に弁護士会に立会弁護士派遣を依頼しなければならず、立会弁護士不在状態で取調を行ってはならない。弁護士会は、当番制を作って何時でも対応できるように相当数の弁護士を確保しておく。立会弁護士には、捜査費用から時給計算の立会料を支払うものとする。中立性という観点から、立会弁護士は弁護人以外の弁護士である。取調の度に異なる弁護士でも構わないし、やむを得ない事情があれば取調途中の交代もあり得るものとする。
 立会弁護士は、取調に際して発言や介入をしてはならない。無言で着席したまま、取調を観察して状況を記録する。証拠能力・証明力の判断に供し得る事実は、肯定方向でも否定方向でも、特に詳細かつ正確に記録する。弁護士会は、被疑者毎の取調立会記録帳を用意し、立会弁護士の持ち回りにする。公訴提起されたら、取調立会記録帳は弁護人に交付される。
 そして、立会弁護士は、供述調書に立会弁護士として署名する。この署名がなければ、書面に証拠能力を付与する規定の適用対象にならず、何があっても絶対に証拠能力を認めないことにする。

 これだけで、取調の適正は相当程度担保される筈だ。弁護士需要も捜査費用も激増するが、その当否は論じない。他にも検討を要する点はあるが、さしあたりこの程度にしておく。現行の録画や録画編集の諸問題については論じない。

 第三者の立会を取調の必要条件にする制度は、大正時代に法律新聞の主宰者であった高木益太郎弁護士が衆議院議員として提案した「人権保護ニ関スル法律案」の内容の一部である。何度提案しても審議未了・廃案にされた法律案であり、知る人は少ないかもしれないが、AGU法研会論集18巻1・2号192 (19) 頁註12で紹介されている。本駄文の案は、立会の質および積極的利用という観点から、高木案に若干の修正を施したものである。出典を含めて、駄文筆者の独創ではないことを付記しておく次第である。
(平30・6・27)