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AIと憲法


愛知学院大学法務支援センター教授 髙橋 洋
 近頃はAI(Artificial Intelligence=人工知能)の話を聞かない日はありません。将棋や囲碁でもAIの方がプロ棋士よりも強くなり,藤井聡太七段の対局中継などを見ていても,棋士の解説よりもAIの評価値の方が気になってしまいます。AIの研究開発,利活用は,様々な分野でとんでもないスピードで進んでいるようです。私たちの日常生活にも,IoT(Internet of Things)という形で入ってきています。それはインターネットなどの通信技術の発達と,CPUやメモリなどの機械技術の発達,そしてそれらを動かすソフト開発によって実現したものですが,これからも加速度的に発展していくことでしょう。こうした新しい技術の発展によって私たちの生活がより便利に,より快適になるであろうことは間違いないところです。
反面,そうした新しい技術がネガティブな方向に使われる可能性も否定しようがありません。スノーデンが暴いたような,国家によるインターネット監視や,顔認証ソフトの導入による公共の場の監視などを通じて,一定の傾向を持った人(たとえば「テロリスト」)を割り出そうとするなど,プライバシーの侵害につながる事案が後を絶ちません。香港の人たちが「マスク禁止」条例に反発するのも無理のないことです。こうしたネガティブな側面を,ある本は,AIによって「監視される」,「差別される」(早期退職傾向に関わるリクナビ事件が一例),「殺される」(兵器ロボットが人を殺す),「騙される」(顔だけ変えた「ポルノ」が作られる)というようにまとめています(平(たいら)和博『悪のAI論』朝日新聞出版,2019年)。これに「職を失う」というのを加えてもいいと思います。
 そうした状況も踏まえつつ,内閣に設置された「統合イノベーション戦略推進会議」は,今年の3月に,『人間中心のAI社会原則』という文書をまとめました。そこでは,来たるべき「AI-Readyな社会」への変革に向けての,あるべき「AIの研究開発や社会実装」について,基本原則を示しています。その中では「基本理念」として,「(1)人間の尊厳が尊重される社会(Dignity)」,「(2)多様な背景を持つ人々が多様な幸せを追求できる社会(Diversity & Inclusion)」,そして「(3)持続性ある社会(Sustainability)」が掲げられています。そして「人間中心のAI社会原則」のところでは,「AI の利用は,憲法及び国際的な規範の保障する基本的人権を侵すものであってはならない。」とされています。こうした理念・原則は,日本国憲法の理念とも合致するものとして,歓迎すべきものと思います。こうした方向で,今後の研究開発や教育が進められていくよう期待したいと思います。
(AGULS第27号(2019/10/25)掲載)