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お墓と法律(その2)


愛知学院大学教授 田中淳子

2023年11月1日、愛知県岡崎市の葬儀会社だった建物内で、ひつぎに入った高齢の男性2名の遺体が発見されました。捜査関係者によると、「(葬儀会社)のドアが開きっぱなしで(異臭も感じ)不審だ」との110番通報があり、駆け付けたところ、腐敗が進んだ遺体を発見したとのこと。後に、別の市への取材から、この遺体は、同年、7月上旬に死亡されたが、引き取り手がいなかったため、市が親族を調査する間(一般的には2~6か月間ほど)、愛知県内に拠点を置く業者に遺体の一時保管を依頼し、実際の保管は別の業者に委託されたが、それが適切になされておらず、今回の発見につながった。自治体も保管依頼後の遺体の管理状況を確認していなかったようです。また、ある自治体では、「火葬の手続きも任せ、そこに職員等が立ち会うことはなく、適切に火葬されたかは確かめていない」という行政事務の実情が明らかになった(中日新聞2023年11月3日朝刊等)衝撃的な事件がありました。
実は、このような事件は今後も増えるかもしれないことが予測できます。最近、2050年には65歳以上の一人暮らし世帯が1084万世帯となるとの推計が公表されました(国立社会保障・人口問題研究所)。この数字は、日本の全世帯の5世帯に一世帯が一人暮らし世帯となることを意味します。人はこの世に生まれた瞬間から生老病死というさまざまな苦痛や悲しみから逃れることができません。人類は、家族や仲間といった共同体を形成し助け合い、支えあって多くの困難な状況を生き延びてきたともいわれています。高齢になり、一人で暮らすことの不安は誰にとっても大きな不安があるものと思います。ご家族がいたとしても、お子さんがいても遠方にいて疎遠となっていたり、お子さんがいない場合も増加しています。怪我や病気等、なにか起こったときにすぐに頼れる家族がいない、そして、前記の岡崎市の事件のようなことも生じるであろうことが前述の数字から想像することができるのではないでしょうか。
当然、弔いについても同様の問題が生じることになります。「無縁墳墓」の増加です。総務省行政評価局が令和5(2023)年9月に公表した「墓地行政に関する調査―公営墓地における無縁墳墓を中心としてー」の中において「人口減少・多死社会の到来は、家族観の多様化等をあいまって、墳墓等の承継(管理)者を確保できない者の増大を生じさせ、その結果が顕在化することで無縁墳墓の発生要因となる」(前出報告書4頁)とし、2007年以降、恒常的に出生数より死亡数の方が多くなっており、無縁墳墓問題の解消のためには、社会の実情、今日の家族観を踏まえた墓地行政への転換の必要性が急務であることが明らかにされています(前出報告書39頁―40頁)。
故人の祭祀財産(仏壇や墓地の利用権等)の所有権の承継や葬儀や供養等を行うのは、民法において規定があります。祭祀主宰者制度といいます。家族や血縁が当然に祭祀に関する財産を承継する、という仕組みではないのです。それも前述した社会的な問題の解決に対応できない理由の一つかもしれません。そもそもたった一か条しかないのです。今後、家族制度に頼れない現代的な問題の解決には民法や葬送関係法制の検討を行うことも急務だと考えます。